世界的水不足で注目の海水淡水化事業 真水を作り出す「膜」技術 世界トップを競う東洋紡

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世界的水不足で注目の海水淡水化事業 真水を作り出す「膜」技術 世界トップを競う東洋紡

7月の洞爺湖“環境”サミット。この中で、水資源の確保や水の衛生に今後も取り組んでいくことが首脳間で確認された。が、現実は厳しい。世界人口の3分の1が飲用に適する水にアクセスできず、2020年にはそれがさらに2分の1にまで拡大するという試算さえある。新興国の経済成長とともに、水資源の確保が緊急の課題であることは言うまでもない。

だが、その問題に一つの福音となる手段がある。「海水淡水化」だ。地球に存在する水の99%近くを占める海から、効率的に真水が取れたら--。実はここに、日本の企業だけが誇る技術が発揮されている。

高い取水率と耐久性 中東諸国でシェア6割

福岡市の海の中道奈多海水淡水化センターは日量最大5万立方メートル、25万世帯分の真水を生産、福岡市など8市8町に供給する国内最大の海水淡水化施設である。ここで採用されているのが、東洋紡が開発した海水淡水化用逆浸透膜。「世界でも高水準の取水率と耐久性が決め手だった」と濱野利夫所長が採用理由を話す。取水率とは、海水から取れる真水の割合のこと。平均は4割だが、ここでは6割の取水が可能という。

福岡市は人口が多い割に水源が乏しく、「2~3年に一度は給水カットが行われる」(濱野所長)土地柄。現に、1978年に287日、94年には295日の給水制限に追い込まれたほど、渇水は日常茶飯事。その解消のため、福岡地区水道企業団が選択したのが海水淡水化だった。

この施設の核となる「高圧RO(逆浸透)ユニット」に、東洋紡が開発した中空糸(ちゅうくうし)型逆浸透膜「ホロセップ」が使われている。高取水率である分、低コスト生産が可能で、あるメーカーの試算では、取水率が60%に向上したことで約20%のコスト削減になるという。この長所を最初に認めたのが中東だった。

雨にも地下水にも乏しい中東では水は大事な資源であり、その確保は頭の痛い問題だ。東洋紡は、10年に完成を目指す世界最大の淡水化プラント、サウジアラビアのシュケイクを筆頭に、中東で圧倒的な地位を占めている(下表参照)。海水淡水化プラントが多い中東湾岸諸国でシェア6割を握るホロセップは、世界でもシェア2割に達する。もちろん世界トップクラスだ。 

 

 

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