「忙しい私」というナルシシズムの大きな代償 「私が思う私」は胡散くさくてインチキっぽい

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その変動は、外から他人が見てもよくわからないかもしれません。けれども、本人にとっては、よりデキるときは「デキる私」のイメージに合うのでうれしいでしょうけれども、平均よりも調子が落ちるときはイメージに反するので苦しく、ストレスフルな時間になることでしょう。

人は「デキる」人になったり、そうでなくなったりする

そして最大の問題は、これから起こる出来事が、「私はこういう人間」というイメージに合うのか合わないのか、誰にも事前には予測し切れないということにあります。

これから、「面白いイメージ」どおりにいくかどうか、「デキるイメージ」どおりにいくかどうか、それは、やってみないとわからないのです。たとえ今回はイメージどおりにいっても、「次はわからない」「だからイメージどおりにすべく頑張らないと!」という緊張と圧迫感が付きまとうのです。

つまり、「〇〇な私」というのを保つために、「こうしなきゃ」「ああしなきゃ」が増えていき、心が休まりません。

「私のイメージ」を保つためには、他人が自分をそのイメージどおりに見てくれている、というのが役立ちます。それゆえ、「こういうふうに見せなくては」とばかりに、他人の目を気にして振る舞うこともまた、増えることでしょう。

前回記事で記した自律神経との絡みで申しますと、こうして「〇〇な私」や人目を気にし続けていますと、交感神経が興奮し続けます。副交感神経の働きがすっかり落ちてしまうのです。そうした、神経がピリピリした状態でばかりいると、バランスが崩れて自律神経を崩しかねません。

思うに、「〇〇な私であらねば!」という呪縛は、「私とは何者だろうか?」という、小難しそうな問いに対して、平均的な社会人が無意識に出している答えです。つまり、「私とは、何者??」――「私とは、デキる人」「面白い人」「頼りになる人」といった具合です。

けれども、その手の答えは、実はすべて根本的に、間違っています。なぜなら先述のとおり、それらの答えに「合う」ときもあれば、「合わない」ときもしょっちゅうあるからです。

それでは私とは、「デキない人」「つまらない人」「頼りにならない人」という答えが正しいのでしょうか。もちろんそれらも、すべて間違っています。たまたまそれらに合うタイミングもあるだけであって、合わないときも山ほどあります。

それでは、私とは、何者なのでしょうか。――何を答えても、当たらないのです。ということは、「私」というのは、しっかりとした実体性を持たない、「なにかうさんくさいもの」だと言わざるを得ないでしょう。

この文章では、これ以上の深いところへ掘り下げるのはやめておきますが、ひとまずは「私」とはなにか、ちょっとうさんくさくてインチキっぽいものだ、という程度に理解していただければ十分です。

だとすれば、そんなインチキなものを後生大事に守るために、精も根も尽きそうになるまで無理をするのは、割に合わないとわかるでしょう。

こうした道理がわかれば、少しずつ楽に生きられると思います。「こうじゃなきゃ!」と思いこんで緊張と負担を背負いこむとき、ふっと立ち止まって自己点検してみるなら、必ずや「〇〇な私」を守るために、意固地になっていたのだと、ハッとさせられるでしょう。

そして、その守りたいものは、インチキだったと思い出し、手放してみましょう。そうすれば、もっと大局的なところから、自然体で決断できます。ましてや、もはや「忙しさ自慢」をして他人に嫌がられることからも、足を洗えるに決まっていますね!

小池 龍之介 月読寺住職

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こいけ りゅうのすけ / Ryunosuke Koike

1978年生まれ。山口県出身。月読寺住職。東京大学教養学部卒業。2003年、ウェブサイト「家出空間」を開設、お寺とカフェの機能を兼ね備えた『iede cafe』を主宰(『iede cafe』は2007年に冬眠)。現在、自身の修行を続けながら、月読寺やカルチャーセンター・ヨガスクールなどで一般向けの坐禅指導、講演等を行う。

主な著書に『考えない練習』(小学館)『自分から自由になる沈黙入門』『もう、怒らない』(ともに幻冬舎)のほか、『超訳ブッダの言葉』『貧乏入門〜あるいは幸福になるお金の使い方』、自身の描く4コマ漫画と解説によって仏道のエッセンスを凝縮した『煩悩リセット稽古帖』がある。

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