奇想天外「国鉄が現在も続く」小説の誕生秘話 「電車でGO!」の仕掛け人が小説家に転身

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当時、ライトノベルの市場規模は300億円にも膨れ上がり、各出版社は次々とライトノベル専用レーベルを立ち上げていた。その頃の豊田といえば、鉄道趣味のルーツを探ったビジネス新書『鉄子のDNA』を上梓しただけで、子供向けの小説『電車でいこう!』もまだ出版されていなかった、まだ小説家としては野のものとも山のものともつかぬ豊田を、そんな巨大市場へ誘ってくれたのは、当時レーベルの立ち上げにかかわっていた プロデューサー・奥村圭作(現・ブシロードメディア社長)だった。

小説家としてもヒットを連発する豊田巧氏(筆者撮影)

豊田と奥村は、豊田がゲーム会社に勤務していた頃からの付き合いだ。「当時、豊田さんは会社で『狂犬』と言われていましたからね。頭が切れることは知っていたので、『鉄子のDNA』のような本を出すのはまったく不思議ではなかったのですが、小説を書いていると聞いてびっくりしました。そんな才能があったのかと」。奥村は驚いたのと同時に、豊田と一緒に仕事をしてみたくなった。そこで、ゲーム会社を退社した豊田にライトノベルを一緒に作ろうと声をかけてみたのだが、最初に出してきた豊田のコンセプトシートを見て、再度、驚いたという。

高校生が合法的に銃を撃つ、過激な案が採用に

そこに書かれていたのは、プロット・あらすじ・プロローグなど、一般的に小説家が出してくるアイデアだけではなかった。宣伝畑が長い豊田ならではとしか言いようのない言葉が躍っていた。コンセプト、ターゲット層、マーケット予測、プロモーションプラン、ビジュアルの参考資料等々。奥村は直感した。これは楽しいことになりそうだ――。

豊田にしてみれば、当たり前の作業だった。新作を提案するときには必ず3案以上のプロットを用意することにしている。これは編集者の選択肢を増やすのみならず、自らのストックを貯めておくのに役立つからである。

このとき、出版社に出したのは4案。基本はライトノベルの太い層である中・高校生をターゲットにしていた。当時から自分の得意分野として鉄道を意識していた豊田の一押しは、ライトノベル市場ではやっていた部活ものに鉄道をかけあわせた日常系の無難な案だった。その逆に、冒険して楽しんだ案が「どうにかして高校生が合法的に銃をぶっぱなせないものかな。しかも鉄道で(笑)」という過激な発想から生まれた『RAIL WARS! -日本國有鉄道公安隊-』だった。驚いたことに、採用されたのはその最も過激な案だった。

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