「働き方法案」に潜むブラック要素を検証する 「成果で賃金を支払う」もウソ?

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新聞やネットニュースでは「働いた時間ではなく、成果に応じて賃金が決まる制度」と頻繁に報じているが、これも実際とは異なる、と話すのは前出・佐々木弁護士。

「成果で賃金を支払うなんて、法案のどこにも書いていません。法律ができたら可能になるような書き方をしていますが、あれは嘘。今だってできますよ、企業がやらないだけで」

それでも高収入の専門職と聞いて、庶民には無関係な話と思うかもしれない。しかし安心はできない。こんな「前科」があるからだ。

一本化される「働き方改革関連法案」のイメージ

「2007年に第1次安倍政権が導入しようとして断念した『ホワイトカラーエグゼンプション』は高収入の人を労働時間規制からはずす制度でしたが、2005年に経団連が出した提言では“年収400万円以上”が対象とされていました。今回の法案も、こうした経済界の意向を受けて今後、この水準の人まで広がるおそれはあります」(竹信さん)

年収の条件ばかりではない。専門職といっても、明確に定められているわけではないため、拡大解釈される可能性が。

佐々木弁護士は懸念を隠さない。

前述した職業はあくまで例。具体的な職種が法律に書かれるわけではなく、省令で決まります。つまり国会審議を経ないで対象を拡大できる。1度作られたらどうなるか、労働者派遣法をみればよくわかります。1986年に施行された当初は13職種に限定されていたのが、いまやほぼ全面解禁です。高プロでも同じことが起きれば、誰もが無関係ではいられません」

営業職も対象に!悪用必至な「定額働かせ放題」のワナ

今ある「裁量労働制」という働き方の対象を大幅に拡大する、それがもうひとつの『残業代ゼロ法案』。またの名を『定額¥働かせ放題』という。

竹信さんによれば、

「高プロと違って、労働時間規制の対象にはなるものの、例えば残業を2時間といった形で会社と約束し、その範囲内で、自分で判断して働いていいですよ、という制度。どれだけ長く働いても、あるいは短く働いても、あらかじめ決められた給料が支払われます」

給料は変わらないのに、自分の判断で仕事から早く帰れるなんて、おいしい話に思えてしまうが、

「仕事量をすごく増やされてしまうと、同じ賃金でどんどん働かなければならない。長時間労働が社会問題化するなかでは、自分の判断で、仕事を早く切り上げられるという人のほうがまれでしょう」(竹信さん)

その制度が規制緩和され、対象が大きく広げられてしまう。

「現状の裁量労働制はシステムエンジニア、デザイナーなど職種によって対象となるものと、事業活動の中枢にある労働者を対象とする企画業務型の裁量労働制があります。今回の法案では、企画業務型の対象が一部の管理職、いわゆる営業職にも広げられます

と佐々木弁護士。ここでいう管理職は、チームや部署でプランを立て、それを実行してチェックし是正する、いわば総合管理をするような立場。世の管理職はだいたいあてはまりそうだ。

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