中国で工場閉鎖命令 セメント業界の曲がり角 生産引き締めと環境規制強化で工場閉鎖の矢面に

拡大
縮小

他工場にも波及か

閉鎖命令の背景について、富士通総研の柯隆主席研究員は「日本企業いじめではなく、中国の産業構造調整の一環。過剰設備を償却し、環境負荷が大きい産業を徐々に縮小していく李克強首相の経済政策、リコノミクスの流れに沿ったものだ」と指摘する。中国では沿海部での需要が臨界点に達したとの認識があり、南京以外でも中国当局による業者淘汰の強硬姿勢が打ち出されている。

太平洋セメントは遼寧省大連、河北省秦皇島にも、南京と同規模の工場を構える。三菱マテリアルも山東省煙台に工場を持つ。これらの日系工場に関しても、「地方政府の総合的な判断によるが、工場移転を命じられる可能性は高く、閉鎖の事態も考えられる」と、東アジア環境・省エネ協会の大元守理事長は見通す。

沿海部での事業継続が難しくなる中、日系各社が目を向け始めたのが内陸部だ。インフラ投資が活発なうえ、リコノミクスのキーワードとして「農村部の都市化」が挙げられており、政策的な追い風も吹く。

住友大阪セメントはベトナム、ミャンマーと国境を接する雲南省で、地元企業などへの間接出資を進めている。同省は水力発電ダムや高速道路などセメント需要拡大が見込まれ、すでに年間の配当収入は数億円に上る。太平洋セメントも中国西部の新疆ウイグル自治区に合弁会社を設立し、14年11月から年間120万トン規模でセメント生産を開始する。

だが急ピッチの増産が続けば、内陸部でも需要のピークは3~5年で訪れると見られている。シティグループ証券の越智達郎シニアアソシエイトは「中国からの完全撤退はありえないが、東南アジアやアフリカなど、ほかの成長市場にも投資を振り向けるべき」と指摘する。成長が鈍化する中、中国とどう向き合うか、各社の経営の巧拙が問われている。

週刊東洋経済2013年9月7日号

古庄 英一 東洋経済 記者

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ふるしょう えいいち / Eiichi Furusho

2000年以降、株式マーケット関連の雑誌編集に携わり、『会社四季報』の英語版『JAPAN COMPANY HANDBOOK』、『株式ウイークリー』の各編集長などを歴任。

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西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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