往復6時間も!米国で増える「超長時間通勤」 サンフランシスコから郊外へ移り住む人たち

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ただ、内陸部の住宅価格も上昇している。太平洋岸と並行するように広がるセントラルバレーと呼ばれる平原地帯(サンホアキン郡もその一部だ)は、カリフォルニア州で最も不動産価格が上昇している地域だ。サンホアキン郡と隣のマーセド郡の住宅価格は、この1年で約12%上昇した。

「かつてオークランド(アラメダの北側にある街)は、比較的手頃な家賃で住める場所だった。3年前の住宅価格は50万ドル前後だ」と、ジローのチーフエコノミストのスベニヤ・グデルは言う。「それが今は70万ドルだ。人々の所得の伸びは、その上昇ペースに追いついていない」。

すでに住宅価格の急騰は、経済に悪影響を与え始めていると、調査会社ビーコン・エコノミクスのパートナーのクリストファー・ソーンバーグは語る。この1年で、カリフォルニア州の雇用の伸びは鈍化してきた。その一因は、住宅価格が高すぎて通勤可能な範囲に人がいないからだ。「人がいなければ、雇用を増やしようがない」と、ソーンバーグは言う。

自分のペースを守るための超早起き

ジェームズの乗ったバスがBARTの駅に到着すると、多くの人は早足で高架線の向こう側の駅に駆け込む。だが、ジェームズはここでも、たっぷり時間をとって歩いて行く。

サンホアキン郡からベイエリアに通勤する人は約5万人。金融危機前のピーク時の水準に戻ったと、ストックトンにあるパシフィック大学企業・政策研究センターのジェフリー・マイケル所長は語る。このため同郡の中心都市ストックトンは、全米でも指折りの「エクストリーム通勤者(通勤時間が1時間半以上の人)」が多い街になった。

もちろん長い通勤時間は、カリフォルニア北部だけの問題ではない。通勤時間が1時間半以上の人の数は、全米の就労者のほぼ3%を占める。だが、ベイエリアではこの3年で、その割合が3%から5%近くまで上昇した(ブルッキングズ研究所の調べ)。ストックトンだけを見ると、通勤客の8%以上が職場まで1時間半以上かかっている。

ジェームズの場合、最悪でも午前3時50分に起きれば、4時20分の急行に飛び乗れる。でも彼女は、アラメダ時代のように、朝はのんびり過ごすのが好きだ。だから2時15分という究極の早起きを続けている。

職場の最寄り駅の1つ前でBARTを降りて、少し長く歩くときもある。でも、その日はいつもどおり午前7時にシビックセンター駅に着くと、エスカレーターで地上に上がった。

「時には、自分をいたわってあげないとね」

オフィスがある連邦ビルまでは歩いて3分。そこからようやく、彼女の「仕事の1日」が始まる。そして12時間後には、再び3時間がかりの帰宅の旅が待っている。

(執筆:Conor Dougherty記者、Andrew Burton記者、翻訳:藤原朝子)

© 2017 New York Times News Service

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