トランプ政権は「金融規制緩和」を加速させる FRB新体制でウォール街との絆が強まった

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2人の関係がおかしくなったのは、バージニア州シャーロッツビル事件で、トランプ大統領が白人至上主義者を強く批判しなかったことに対して、コーン氏が強く反発したからだが、それには白人至上主義を憎むコーン氏と夫人の正義感が強く働いたとされる。その後、トランプ氏とコーン氏とは和解したが、両者の間に距離ができたことは否めない。

そんなことも影響してか、イエレン議長再任の可能性が急浮上してきた。トランプ氏は大統領選に勝利する前には、イエレン議長の解任を公言していた。大統領就任後も金融規制に対するタカ派的な姿勢に批判的だったが、このところ批判はまったくしていない。イエレン氏自身も再任の打診があれば、受ける考えだ。

トランプ大統領がイエレン議長を批判せず、むしろその技量を認めるようになったのは、ウォール街におけるイエレン議長への高い評価が効いている。イエレン議長は金融規制について、フィッシャー副議長よりタカ派ではない。何よりもマーケットの先を読む天才の誉れが高い。それはウォール街では前々から知れ渡っていた。

ウォール街と連携して中国、ロシアを抑える

イエレン氏は2014年にFRB副議長から議長に就任した。女性で初のFRB議長だ。バラク・オバマ前大統領にとって、イエレン議長はあくまでも5番目のチョイスだった。その候補を議長に押し上げたのは、ウォール街の強い推薦だった。マーケットを熟知している才能を大いに買っているからだ。その評価はいまも変わらない。

オバマ氏退任後、ウォール街は40万ドルの高額講演料でオバマ氏を迎えたが、実はオバマ氏は、議会との関係も含めてウォール街に頭が上がらない。2008年のリーマンショック以後の混乱を救ったのは、オバマ氏と議会の共同作戦ということになっているが、その「オバマプラン」と呼ばれる救済プランは、ウォール街の原案を基に仕上げたもので、それに直接携わったのは、今回、FRB副議長に指名されたクオールズ氏が働いていた弁護士事務所だった。「オバマプラン」の書類には、その事務所のペーパーの透かし刻印があった。

「オバマプラン」はオバマ氏の見識と指導力で作られたことになっているが、実は、ウォール街の卓抜した技量と、ウォール街出身で金融を熟知した議員たちの協力があって初めて仕上がったものだ。トランプ大統領の「最大のライバル」であるオバマ氏にとって、その事実は「弱み」であり、トランプ氏にとっては「強み」になる。

現在、トランプ政権の下で進んでいる、クオールズFRB副議長の任命、フィッシャー副議長の辞任、イエレン議長の再任という一連の動きは、いわばトランプ政権によるFRB新体制づくりであり、それはウォール街との絆を強めるものでもある。

トランプ政権が進めようとしている金融規制緩和は、FRB新体制によって加速される。それはウォール街のパワーをも活性化する。勢い、ウォール街との絆は強まる。トランプ大統領がそれを意図的に進めているかどうかは不明だが、まさに「トランプ政権の秘策」といっていいだろう。

ウォール街は何といっても米国と世界のパワーとマネーの中心である。トランプ政権にとって、北朝鮮だけでなく、中国やロシアなどを抑え込むには、ウォール街のバックアップは欠かせない。マネーロンダリング調査や資産凍結などの手法は、ウォール街のサポートがあって初めて出来上がる。優秀な仕事人が集まっているウォール街との連携は、これからの政権運営に強力な支援になることは間違いない。

そうした支援体制の構築によるトランプ政権の安定化が功を奏しているのかどうか、ここへきてニッキー・ヘイリー米国連大使も強気に出ている。その強気が、国連安保理の北朝鮮に対する中国、ロシアを含めて一致した追加制裁決議を引き出したのではないか。その背後に「トランプ秘策」が進められていたと見ることもできる。

湯浅 卓 米国弁護士

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ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

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