中国の大型書店「方所」が注目を集める理由 知識欲がビジネスチャンスになっている

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末っ子として兄や姉にかわいがられて育った毛氏。大企業のトップでありながら、親しみやすい雰囲気を漂わせる(筆者撮影)

安全な公共空間として機能する方所

――貴店は複合型形態だが、書籍売り場が大部分を占める。書籍販売の現状は?

:現在の4店舗を見渡すと、書籍販売が全体の売り上げに占める割合は約半分だ。売り上げも当初の目標を達成している。客層は広いが、特に若者や親子での来店が多い。中国の大きな都市では、安心して子どもを遊ばせられる場所が少ないため、弊店が安全な公共空間として機能しているとも見ている。

子どもに行きたいと思わせる場作りを心掛けると同時に、子どもに連れられて来店した親たちも満足できる専門性の高い内容の本、質の高い環境を用意した。顧客からは「子どもが誕生日には方所に行きたいと言っている」「ウエディング写真の撮影をしたい」という声も聞く。周囲の住民から一定の評価を受けていることの証しだと考えている。場作りと売り上げは相互関係にあるだろう。

――同業他社の参入も多い。貴店の今後の見通しは?

:「一城一店(ひとつの街にひとつの店舗)」という形態を続ける。成都店がゆったりした造りになっているのに比べ、重慶店は本の密度が高い空間というように、店の設計にも変化を加えている。また、各都市で売れ筋の書籍が違うこともわかってきたので、入荷やイベント内容でそのノウハウを生かす。来年は上海の浦東地区で売り場面積8000平方メートルの店舗をオープンする。また、需要が大きい児童書についても今後は出版の段階からかかわるプロジェクトを考えている。

※  ※  ※

毛氏に「方所」という社名の由来を聞いたところ、6世紀の王朝・梁の皇族で文章家の蕭統(しょうとう)が記した「定是常住、便成方所」から採ったという。解釈には諸説あるが、毛氏は「豊かな文化を育む下地は、人が出会い知識を深める場所にこそある」という意味を込めた。複合経営を行いながらも、「書店の原点」を忘れない姿勢の表れといえるだろう。

吉井 忍 フリーランスライター(北京在住)

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よしい しのぶ / Shinobu Yoshii

国際基督教大学・教養学部国際関係学科卒業。台北、マニラ、上海、北京などアジア諸地域で記者として勤務。2008年より中国語での執筆活動を開始。主な著書に『四季便当(四季の弁当)』(2014年、広西師範大学出版社)、『東京本屋』(2016年、上海人民出版社)がある。

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