中国の大型書店「方所」が注目を集める理由 知識欲がビジネスチャンスになっている

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壇上の毛継鴻氏(方所提供)

筆者は、このイベントに司会兼コメンテーターとして参加した。他のゲストに参加した感想を尋ねると「中国は初めてだけど、皆さんずいぶん洗練されているのね」「用意してくれたホテルが豪華で驚いた」という素直で好意的な声が多かった。また、フォーラムが1つ終了するごとに出版・書店関係者がわれ先にとゲストに声をかけ、流暢な英語で交流する様子も印象的だった。

方所は2011年の広州市を皮切りに、2015年に成都市と重慶市、2016年には青島市に進出している。これら4都市の流行を担う新形態の大型書店として国内メディアで盛んに取り上げられてきたが、今回のイベントを通じて自らを国際的な立ち位置にまで引き上げようとする積極的な姿勢も垣間見られた。

顧客を引き込む空間づくり

方所の各店舗はいずれも市中心部にあるショッピングモール内に店舗を構える。現地の出版関係者によると、大型書店はショッピングモールの集客力の一端を担うため、比較的有利な条件でテナント入居できるとのこと。台湾で「書店の女王」と称される廖美立氏が経営に携わっていることもあり、方所の高級感漂う空間設計、カフェを併設した店舗設計、国内外の著名人によるイベント開催で集客を図る「複合型」の経営スタイルは、台湾の大型書店「誠品書店」を彷彿とさせる。

成都店の売り場面積は約4000平方メートル、平日で7000人、週末はその2倍以上の客が訪れるという。一般書籍のほか台湾から輸入した繁体字版書籍、洋書や海外の雑誌を含む15万冊をそろえるほか、「例外」ブランドの衣類や日本の伝統工芸品なども販売している。今夏は京都の茶筒司「開化堂」から職人を招いた実演会も開催した。

中国では近年、方所のような大型書店の新規開店が相次ぐ。書店の複合型経営において草分け的存在である台湾の誠品書店は2015年、江蘇省・蘇州市に三菱地所と共同で開発したタワーマンション複合型の店舗をオープン。このほか成都市に拠点を置き全国展開する「言幾又」、インスタ映えする鏡張りの天井で知られる「鍾書閣」などが有名だ。

大型書店を含む中国のソフトパワーは、潤沢な資金と柔軟な思考で伸び盛りにある。経済発展が一段落する中、一般の人々が海外に赴く機会が激増したことも後押しし、生活水準だけでなく文化的素養を高めたいという欲求が国民の間で高まっていることが背景にある。それが表面的なものでないことは、中国の大手企業中信集団(CTIC)の出版子会社・中信出版集団が、蔦屋書店の経営母体CCCと今年5月に資本業務提携したことからもうかがえるだろう。

日中双方、世界各地の書店・出版事業者がより深くつながる時代に向け、方所はどのような戦略を描いているのか。これまで中国のカルチャー産業に20年以上身を置いてきた毛氏に話を聞いた。

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