【永守重信氏・講演】経営戦略としてのM&A(その6)

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一橋ビジネスレビュー・フォーラム
「経営戦略としてのM&A~マネーゲームから国際競争力へ」より
講師:永守重信
08年7月23日 六本木アカデミーヒルズ(東京)

その5より続き)

●画期的な製品なんて簡単に出ない

▲日本サーボの再建の事例(2006~2007年度の日本サーボ四半期ベース営業利益と売上高)
2007年4月27日の日本電産グループ入り直後に、営業利益が大幅に改善されているのが分かる。現在は過去最高利益を大幅に更新し、2008年10月に日本電産サーボへと社名を変更
 結局、日本サーボは最短距離で、1年目で創業以来の過去最高利益を更新しました。過去のデータは継続的な赤字ですが、昨年1年間で一気に大幅な黒字になりました。20億5300万の営業利益が出て売上も伸びています。1年目なんて環境は何にも変化はない。まさに同じ従業員で、同じマーケットで、同じ製品で、それで同じ場所で、何にも変わっていないのです。何にも変わっていないのに、1年間で創業約60年の中で最高利益になってしまうということが起きたのです。

 これはさらに細かく、クォーターごとに見ていくと分かりやすいです。4月だけでかなりの赤字が出ています。しかし、4月27日に買収した後の5月にはもうトントンになって、6月にかなりの利益が出ているわけです。これは何の差かと言ったら、「休まないで来てください」「職場をキレイにしてください」とだけしか言っていません。「新製品を出しなさい」とか、「もっと新しい客を探してきなさい」などとは一切言っていません。そんなこと言っても、簡単には見つかりません。第一、「素晴らしい画期的な製品を出しなさい」と言っても、そんな製品がすぐに出るわけがないです。このようなことを何にもしなくても、こういう結果になっています。

●モータ業界の名門、そこには技術力の蓄積がある。

 つまり、この会社は結論から申し上げたら非常に潜在的能力が高い会社だったのです。本当にいい会社を譲ってもらったなと思っています。昔から憧れていた会社ですから、余計にそう思いますね。ああ、やっぱり昔の良さが残っていると思いますし、モータ業界ではやはり名門です。  もちろん製品も本当にいいものを作っています。ただ、今までコンセプトはいいけれども、全然儲からない製品を作っていました。しかしコンセプトは大事です。やはりそこには技術力の蓄積みたいなものがあるわけで、この会社の良さが長い間にも蓄積されていたと言えると思います。
その7に続く、全7回)
永守重信(ながもり・しげのぶ)
1944年、京都府に生まれる。
職業訓練大学校電気科を卒業後、技術者を経て28歳の1973年に日本電産株式会社を創立。現代表取締役社長。
1980年代より積極的なM&A戦略を展開し、精密小型モータ開発・製造をコア事業として140のグループ会社を擁する企業へと発展させた。著書に『 奇跡の人材育成法』『情熱・熱意・執念の経営』(PHP研究所刊)ほか多数。
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