ノーベル賞学者「生産性向上は"昭和"に学べ」 スティグリッツの警告「規制緩和は逆効果」

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しかし、ワシントンコンセンサスのイデオロギーの影響で、このような政策は多くの国で重きを置かれなくなりました。もっとも、アメリカの国防総省では内々で限定的にこのような政策は継続されていました。本書は、ラーニング・ソサイエティの構築になぜ産業政策が重要な役割を担うことができるのかを議論しています。

21世紀の新しい産業政策が成功を決める

今日本に必要なことは、新しい産業政策です。21世紀の知識とサービスに基づいた経済のための政策です。この政策がなぜそれほど重要なのか、政策をどう形成すればいいのかを本書で説明しました。これはかつてのような、産業と政府の協働に基づいていますが、本書の提案は学会や大学・研究機関とのかかわりをもっと大きくしたものです。

日本は、製造分野で培った優れた能力を別の分野に十分に転換できずにいます。日本の現在の比較優位を活用して、こうした転換を試みることが21世紀の産業政策となるでしょう。たとえば、将来の動学的比較優位を形成するように、工業技術に生かすのです。

例として(すでに始まっていますが)、産業政策で日本の技術力を活用し、高齢者診断のための医療機器を開発することもできるでしょう。21世紀の日本の産業政策は、地球温暖化、人口の高齢化、格差拡大など、21世紀のほかの中心的問題に焦点を当てる必要があります。

本書は経済の課題を取り上げる一方で、経済学の理論や原理の多くに対して批判的洞察も行っています。現在の思考は、まったく異なる世界に生きた18世紀や19世紀の古典派経済学者たちによって過度に影響されてしまっています。

アダム・スミスのピン工場を例にした分業の理論は、現代のイノベーション社会には関係ありません。デヴィッド・リカードは、天然資源の賦存量に基づいた比較優位にのみ依存して貿易を行う世界を想定しました。たとえば、ポルトガルは、英国よりも太陽光が強くブドウがよく育つのでワインを輸出する、という考え方です。

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