台風「2つの末路」は、油断すると結構危ない 再び台風になる場合もある

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まず、熱帯低気圧になるということは、台風の中心付近の最大風速が約17m/s以下になるということです。つまり、「台風の勢力が弱くなる」ということです。

では、温帯低気圧に変わるというのは何でしょうか。温帯低気圧とは、一般的に「低気圧」と呼ばれているもので、前線を伴うこともあります。熱帯低気圧は暖かい空気だけでできていますが、温帯低気圧は、暖かい空気と冷たい空気がぶつかることで発生します。そして、暖かい空気と冷たい空気のぶつかったところが前線になるのです。

低気圧になったからといって油断できない

つまり、台風が日本付近まで北上すると、台風由来の暖かい空気が、北からの冷たい空気とぶつかり、温帯低気圧に変わるということなのです。

温帯低気圧化し始めている台風。台風の同心円状の構造が崩れ、前線を伴い始めている。ただし、台風の中心付近には暖かい空気があるため、前線はまだ、台風の中心からは伸びていない(出所:気象庁HP)

テレビなどの天気図で、「熱」とか「低」という文字が表示されると、なんとなく「熱」のほうが激しそうな印象を受けます。

しかし、実は「低」のほうが油断大敵です。前線付近で雨雲が発達し、再び雨が強まることがあるからです。また、台風に比べると温帯低気圧のほうが風の吹く範囲が広く、中心から離れた場所でも風が強いという特徴があります。

たとえば、2004年の台風18号では、北海道の西の海上で温帯低気圧化しましたが、北海道で最大瞬間風速50m/sを観測し、風による倒木や転倒・転落などで死傷者が出ました。だから、「温帯低気圧に変化しました」といわれても決して油断してはいけないのです。

では、「熱」なら安心かというと、必ずしもそうとはかぎりません。中心付近が約17m/s以下になったといっても、もし15m/s程度の風が吹けば一般道路の自動車並みの速さなので、風に向かって歩きにくくなりますし、高速道路の運転も危険です。また、風が弱まっても雨が弱まるとはかぎりません。

さらに、熱帯低気圧が再び暖かい海の上に出て、水蒸気が補給されれば、再び勢力を強めて台風に戻ることもありえます。このような例は少ないのですが、たとえば1973年の台風6号や2009年の台風17号、2014年の台風7号などが挙げられます。

気象庁では、台風が温帯低気圧になっても、雨や風が強いと予想されれば警報や注意報などを発表しています。決して油断することなく、これらの情報に注意して行動したいものです。

今井 明子 気象予報士・サイエンスライター

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いまい あきこ / Akiko Imai

2001年京都大学農学部卒。酒メーカー商品企画部、印刷会社営業職、編集プロダクションを経て、2012年からフリーに。子ども向けや一般向けにわかりやすく科学を解説する書籍や記事を多数執筆。著書に『気象の図鑑』(共著、技術評論社)、『異常気象と温暖化がわかる』(技術評論社)がある。ほか、医療・健康、教育、旅行分野も得意。気象予報士として、お天気教室や防災講座の講師も務める。

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