ホンダがN-BOXの好調を単純に喜べない事情 販売現場で懸念される「ヒット車傾注」の弊害

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(左)フリード、(右)ステップワゴン スパーダ(写真:ホンダ)

「(国内販売で圧倒的強さを見せる)トヨタ自動車系販売店のセールスマンに比べると、ホンダ系販売店のセールスマンは取り扱い車種の売り分けが苦手」とは、国産乗用車の販売現場でよく聞かれる声だ。直近で登場した新型車や販売中核車種の販売に手いっぱいになってしまう傾向が代々目立っている。

軽自動車はもともと売りやすいというのは、自動車販売業界の常ではあるが、ホンダのセールスマンからすれば、商品性の高いN-BOXはさらにそうだ。最大4人乗りという軽自動車ならではの制約を除けば、従来は普通乗用車のコンパクトカーやミニバンに乗っていたような人の一部を乗り換えさせ、かつ満足させられる魅力を備えているからだ。

世界的なダウンサイジングの流れ

走行性能や安全機能、品質は普通乗用車のコンパクトカーと遜色のないレベルまで高めているほか、室内空間の広さは大人4人で乗っても大きな不満がない。何と言っても軽自動車は税金、保険料、車検などにかかる維持費用や消耗品購入費などが普通乗用車に比べて圧倒的に安い。何もN-BOXに始まったことではないが、世界的なダウンサイジングの流れもあって小さな車に乗ることにユーザーの抵抗が薄れているという時代背景もある。

それがホンダの新車販売にとっては、決してよいことばかりでもない。フィット、フリード、ステップワゴンを買おうと来店した一見客の一部には、N-BOXが気に入ってそれを買い求めるということが、初代N-BOXの時代から実際にあったようだ。セールスマンとしては、それをあえて止めることもなく、2代目N-BOXでも同じようなことが起こりうるが、ホンダブランド全体でみると偏った販売状況になってしまう。

事実、ホンダの国内乗用車販売は近年、N-BOXを軸とする軽乗用車へ傾注ぎみになっている。国内乗用車販売における軽自動車の比率はN-BOX投入前が2割程度だったのに対し、2016年は約45%まで上昇している。N-BOXだけを取り出すと2016年販売台数は約18万6000台。これはホンダ乗用車全体(約70万7000台)の26%と4分の1強にも及ぶ。

トヨタ自動車においても、近年はダウンサイジングの流れから、コンパクトながら最大7人が乗れる「シエンタ」の販売が好調な一方、従来はシエンタよりもエンジン排気量やボディサイズが大きめの8人乗り箱型ミニバン「ノア」や「ヴォクシー」などを欲していた層の需要を一部奪っている、という声もトヨタの販売現場からは聞こえてくる。

それでもトヨタ系販売店の一部では、売りやすい小さな車に販売が偏らないように販売実績の評価を台数に偏らせなかったり、価格の高い車もバランスよく売るように会社がセールスマンに指導したりするケースもあり、これがトヨタの販売力の強さでもある。

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