「衰退する企業、しない企業」の決定的な違い 冨山和彦×小城武彦「衰退の法則」対談<後編>

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小城:私はオーナー系企業も分析しましたが、オーナーに意思決定が一極集中している点では、いい会社もそうでない会社も変わりません。「オーナー一本足打法」という感じです。

業績が悪い会社はオーナーの意思決定が間違っていても、社内にそれを補正するメカニズムがないため、オーナーが言ったことを現場が愚直に実行してしまう。破綻の原因は、ひとえにオーナーの意思決定の間違いということができます。

一方、業績がよいオーナー会社では、「オーナー一本足打法」のリスクを低減させる工夫がなされていました。2パターンありました。

1つ目は、社外取締役に自分に対してガンガン意見する人をたくさん置き、「外部の目」で自分の軌道修正を図るパターン。もう1つは、まずは信頼する右腕に組織を徹底的に鍛え上げさせ、それを踏まえて、大幅な権限委譲を行ってオーナーは大所高所でのみモノを言うことに自己抑制しているパターン。非オーナー系優良会社のいい部分を取り入れて、右腕を前面に出し、「一本足打法」そのものからの脱却を図っているといえます。

冨山:伝統的な企業が共和制だとすると、オーナー系会社は君主制か、立憲君主制といえそうですね。君主制は君主に依存するので、いい君主なら繁栄し、頓珍漢だと死んでしまう。

日本型企業の共和制は中空構造になりがちです。殻をむいていくと何もなくなる。カネボウなども、中興の祖といわれた人の存在があるようで実際にはない。なぜそうなったのかを探ってみても、誰の明確な意思もない。だから、それを正すために、産業再生機構が芯をつくる必要があった。

一方、オーナー会社にお勧めなのが立憲君主制。この場合、芯となるのは君主ですが、英国王室のように君臨すれども統治せず。日本の企業体には、これが割と受け入れやすい仕組みのような気がします。問題点は、君主が聡明でなくてはならないこと。象徴天皇のような形で、会社を企業体として最後の最後に束ねる要の役割を果たさなくてはなりません。

立憲君主制にどう移行させるか

小城:君主制から立憲君主の移行過程のマネジメントはなかなか難しそうですね。

冨山:それもハードルですね。たとえば、オムロンの20年近くの歴史は、立憲君主制への名誉革命だと思いますね。 

小城:なるほど。移行に20年はかかるということですね。その組織のケイパビリティを高めて、任せても大丈夫だと、君主自体が思わなくてはならない。

冨山:オーナー一族にある種の自己規律が必要です。共和制への移行ではないので、幕府がそれなりの統治をしなくてはならない。オムロンの場合、オーナー家、プロパー社員、社外人材という組み合わせでモデルをつくっています。サントリーはそれとは違うモデルですが、それぞれで持続的に機能する生態系をつくる必要がありますね。そこは工夫のしどころです。

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