静かに企業を殺す「サイレントキラー」の恐怖 冨山和彦×小城武彦「衰退の法則」対談<前編>

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小城:サラリーマン経営者は任期を終えれば、逃げ切れますしね。

冨山:パナソニックなどは必死に変わろうとしていますが、これはマルチビジネスであることも大きいと思う。一部ビジネスで完膚なきまでやられているので、ほかの事業も絶対に安泰だとは、経営者が思わなくなる。

少なくとも、パナソニック、日立、三菱電機などはそうした危機感を持っている。いちばん鈍かったのが東芝で、その温度差が現象として現れたような気がします。

小城:深刻な影響が出る前に、どうやったら変革のハンドルを切れるケイパビリティ(全体として持つ組織能力)を身に付けられるかが、次の課題ですね。冨山さんがかかわられたコーポレートガバナンス・コードに「独立社外取締役」の項目がありますが、これが1つの鍵になると思っています。要するに、空気をあえて読まない人を入れ、予定調和を壊す工夫をする。

冨山:そのときには、数量的なディシプリンがある程度、効いたほうがいいので、ROEなどで圧力をかける。もう1つは、小城さんの専門領域だと思いますが、人材面からのディシプリンが働かないと、みんな本気で変わろうとはしません。

プレッシャーをかけて、予定調和を打ち破れ!

小城武彦(おぎ たけひこ)/日本人材機構代表取締役社長 1961年生まれ。1984年東京大学卒業、通商産業省(現・経済産業省)入省。1991年プリンストン大学ウッドローウィルソン大学院修了(国際関係論専攻)。1997年カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社、代表取締役常務などを経て、2004年産業再生機構入社、カネボウ代表執行役社長(出向)。2007年丸善(現・丸善CHIホールディングス)代表取締役社長を経て、2015年より現職。2016年に東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。西武ホールディングスとミスミグループ本社の社外取締役、金融庁参与を兼務(撮影:今井康一)

冨山:最近気づいたのですが、愛社精神や仲間意識が旺盛なザ・ジャパニーズ・カンパニーで、かつマルチビジネスの場合、全社が傾く前に一部の事業が衰え始めることが多い。ポートフォリオを入れ替えてその事業を売却する手もあるけれども、事業モデルを転換して生き返ることもある。後者を志向するときに有効なのが、「本気で売却するぞ」という動きに出ること。

小城:相互協調的自己観が破壊されるのではないかという、危機感を抱かせるのですね。

冨山:社内の人にとって、帰属している共同体とは文化、価値観、世界観、評価方法がまったく異質の企業に売り飛ばされるのは、悪夢中の悪夢。そうなるくらいならROEが10%を超えるところまでは、歯を食いしばってでも変革を遂げようとする。ただし、口先だけでなく、本気だと示すために、売却準備の行動も実際にとらなくてはならないけどね。

小城:外部機関によるヒアリングなどが始まれば、これはまずいと思うわけかぁ。となると、冨山さんのような人が社外取締役に座って、自社の経営陣ならやりかねないと思わせることが必要ですね。

冨山:そうそう。社長を動かして、猛烈な勢いでやりかねないと思わせる。あとは毎月、この事業は売却だと1年かけて言い続ける。分社化でもしようものなら、「売却の準備らしい」といったうわさが立ち、みんなも必死になります。

小城:日本的で興味深いですね。そうやって懸命に取り組んでいくうちに、ふと気づくと、極めていい会社になっているとか。

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