【永守重信氏・講演】経営戦略としてのM&A(その2)

一橋ビジネスレビュー・フォーラム
「経営戦略としてのM&A~マネーゲームから国際競争力へ」より
講師:永守重信
08年7月23日 六本木アカデミーヒルズ(東京)

その1より続き)

●欲しい会社は極めて明快、戦略の一つとして有効に使うM&A

 さて、日本電産のM&A戦略の基本ですが、ただ会社を大きくしようということではなく、あくまで"回るもの、動くもの"というモータをコア事業にして、その応用製品、あるいは部品に特化していこうと考えています。ですから、単に事業を多角化して会社の規模を大きくすることは考えていません。
 基本的にはわが社の一番得意な「ブラシレスDCモータ」がコア事業であり、そこからモータの応用製品……例えば最近でしたらロボットなどへ展開していきます。したがって、コア事業の展開を実現するために必要な人材、技術、マーケットを手に入れるために、M&Aを活用していくことになります。

 つまり、欲しい会社は極めてはっきりしているわけです。『会社四季報』を眺めていても、「欲しい会社は?」と言われたら、30社ぐらいはすぐに明快に出てきます。一番欠かせないのが技術力の評価です。人材が持っている技術をM&Aで取り込み、有効に活用し、掲げた目標値を実現させるのです。
 今まで譲ってもらった会社の中には、単に規模を大きくするとか、あるいは売上を増やすとか、利益を増やすなどというM&Aは1件もありません。

●敵対的買収が失敗する要因は農耕民族の考えを読みきれないから

 ここで戦略としてのM&Aなのですが、会社は誰のものかと考えますと、正しい答えは「株主のもの」だと思います。しかし、現実ではなかなかそうはいきません。特に日本の場合は、敵対的買収ではなく「お願い買収」といいますか、何とか売ってくれませんかとお願いにあがったM&Aにしても、必ずしもうまくいくわけではありません。「この会社の経営をぜひ私にやらせてくれませんか」とお願いし、「分かりました、あなたに渡しましょう」と言っていただいて過半数の株を持たせていただいても、資本の論理だけで経営がうまくいくかというと、そうではありません。

 日本は農耕民族なものですから、従業員は結果的に誰が経営のトップであるか、誰がオーナーかということを非常に重視します。やり方を間違えると、キーの人間が辞めてしまって「買ったのはその土地と建物だけ」というようなことになりかねません。
 いろいろな会社に資本参加させていただきましたので分かるのですが、業績が悪くてボーナスは何年間も出ていない、あるいは昇給もない。給料も待遇も悪い会社なのに、非常に優秀な社員の方がたくさん残っている場合があるのです。それで「君なら、どんな会社へも行けるだろう。何故悪い待遇で何年間も残って働いているのですか」と聞きますと、「私はこの会社が好きです。私はこの現在の仕事に満足しています」という答えが返ってくる場合が圧倒的に多いのです。

●買収したときがスタート

 最近はワークライフ・バランスという言葉をよく耳にしますが、働いている会社が本当に好きだという方が日本には多いですね。だから、全然違う会社が乗り込んできても共感を持つ方は非常に少ないと私は見ています。
 一方欧米は狩猟民族なので、一部の幹部の方は別にしても一般の従業員の方は自分のサラリーはどうか、地位はどうかということに満足すれば、オーナーがどう変わろうが知ったことではない場合が多い。ですから、過去に日本でも敵対的買収が行われたことがあるわけですが、その失敗要因は、この日本の典型的な農耕民族の考え方を読みきれなかったからと言えるでしょう。
 今申し上げたように、完全に会社を譲っていただいた状態で会社へ乗り込んでいっても、この考え方は非常に強いものがありますね。ですから、買収あるいは資本参加は、買ったそのときがスタートです。
その3に続く、全7回)
永守重信(ながもり・しげのぶ)
1944年、京都府に生まれる。
職業訓練大学校電気科を卒業後、技術者を経て28歳の1973年に日本電産株式会社を創立。現代表取締役社長。
1980年代より積極的なM&A戦略を展開し、精密小型モータ開発・製造をコア事業として140のグループ会社を擁する企業へと発展させた。著書に『 奇跡の人材育成法』『情熱・熱意・執念の経営』(PHP研究所刊)ほか多数。
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