「世界のホンダ」が復活するのは容易ではない 失われた革新力を取り戻す厳しい挑戦

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自動車レースでは精彩を欠き、マクラーレン・ホンダ勢は今シーズンまだ1勝もしていない。しびれを切らしたマクラーレンは、ホンダとの契約解消を持ち出している。自動車市場では2008年以降、エアバッグの欠陥によるホンダのリコール(回収・無償修理)数は米国で1100万台以上に達した。

2013年と2014年には、トランスミッションの不具合で「フィット」と「ヴェゼル」のハイブリッド車が相次ぐリコールに追い込まれた。EVの分野では、急成長する米テスラ<TSLA.O>や他社の新車種の後塵を拝している。

「我々自身が、かつての元気をなくしてしまったのは間違いない」と八郷社長は危機感を隠さない。同氏はロイターとのインタビューで、1950年代後半に同社が発売した「スーパーカブ」を例に挙げ、「人の生活を変え、行動範囲を広げ、人生も変える」商品を生み出す「ホンダらしさ」復活の必要性を強調した。

技術者がリスクを恐れない「レーシングスピリット」あふれる社風を取り戻し、コスト削減重視に流れがちな社内の圧力から革新勢力を守る──。2015年6月に社長に就任した同氏が目指すのは、こうした企業構造の再構築だ。

その方策の1つとして八郷氏は、ここ数年間、社内の様々な問題について私的な勉強会を行ってきた技術者やマネジャー、計画担当者たちの集まりを正式な社内組織と認め、少数精鋭の改革部隊を設置した。革新的な製品・技術などを開発するために、米航空機メーカーのロッキード・マーチン<LMT.N> 、米IT企業のアップル<AAPL.O>やグーグル<GOOGL.O>などでも結成されている「スカンク・ワークス」と呼ばれる研究開発チームをモデルにした措置だ。

なぜ勢いを失ったのか

ホンダはなぜ先進的な企業としての勢いを失ったのか。それを取り戻す方策は何か。

ロイターでは日本や中国、米国のホンダの現役および元幹部や技術者ら20人以上にインタビューした。彼らの多くは、ホンダが株主価値を優先し、より高い利益率を追求する中で販売拡大とコスト削減に傾き過ぎ、本来の企業力である技術革新の勢いが削がれてしまったと指摘した。さらには、自動車産業が大きく変わろうとする中、ホンダは日本の製造業で称賛される「ものづくり」の意識にとらわれ過ぎているとの声もあった。

これまでホンダにとって、製造業としての基本を重んじる「ものづくり」と生産ラインの効率性を高める「カイゼン」は、企業規模を拡大するうえで大きな力となってきた。しかし、車の電動化、自動運転、コンピューター化など自動車市場がかつてない変化に直面する中、ホンダにはより機敏で繊細なアプローチが必要だと彼らは言う。

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