【永守重信氏・講演】経営戦略としてのM&A(その1)

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一橋ビジネスレビュー・フォーラム
「経営戦略としてのM&A~マネーゲームから国際競争力へ」より
講師:永守重信
08年7月23日 六本木アカデミーヒルズ(東京)

1973年の創業以来、"「回るもの、動くもの」のすべてに"という言葉通り、精密小型モータ開発・製造分野において圧倒的シェアを誇ってきた日本電産株式会社。これまで、同社の創業者、永守重信氏が手掛けてきたM&Aの実績は全27社。そのすべてにおいて成功を収め、現在の売上高約7500億円の約半数がM&Aによるものだという。最近では、たった1年で買収した会社の前期営業赤字5億6000万円を20億5300万円の黒字へと創業以来の最高営業利益へ変貌させたことでも知られる永守氏だが、その驚くべき手腕とは?

●実現できなかった目標は無い

 今日はとても立派なタイトルをいただいているのですが、今までやってきたことを簡単にお話しさせていただきます。我々の会社は、ちょうど本日7月23日で満35周年になりますが、現在今期の連結売上を8000億円、営業利益を900億円と計画しています。創業時は4人でスタートした会社ですが、M&Aを始めてからこの10年程は売上の約半分が自力の成長、残りの半分がM&Aによるものになります。ですから今期は4000億が自力の成長、4000億がM&Aというわけです。ちなみに今まで実施したM&Aは27社。つまり27社の売上が約4000億とお考えいただくと、分かりやすいと思います。

 ちょうど2000年に売上が1000億を超えた際、「2010年度に売上1兆円を達成するぞ!」と宣言しました。売上1000億規模の会社が10年間で10倍の1兆円を目指すというのですから、毎年1000億ずつ売上を増やしていかなければなりません。この目標はだいたい根拠のないホラから始まっています(笑)。しかし段々とその目標に近づいてきまして、昨年ぐらいからホラが夢に変わりました。そして「夢は実現するもの」だという風に考えています。ちょうど今期の売上予想が8000億。今まで年を追って2000億、3000億、4000億、5000億……と順調に売上を伸ばして来ました。さらに8000億、9000億、1兆円……と、そんな率でこのままいけば、2010年には売上1兆円を達成することになります。

●2012年度には車載モータで世界一

 そして最近はホラが夢……つまり実現するものに変わりましたので、また違うホラを吹いています。「2015年に2兆円」、さらには「2030年には10兆円」と言っています。このホラは、昨年の新入社員研修会のときに質問を受けたのがきっかけです。「私たちはこの会社に入ったけれど、私が部長ぐらいになったときにはどれぐらいの会社になっていますか?」と質問するので、「では、君が部長になるのが仮に今から23年先の2030年だとすると、そのときは10兆円だな」と答えた言葉が一人歩きしまして、今では2030年には10兆円企業だということになっています(笑)。

 そもそもホラというものには根拠がないわけですが(笑)、一歩一歩、私達は会社を伸ばしていこうと中期経営目標を立てて取り組んでいます。先ほど申し上げた2010年度の連結売上高が1兆円、そして2012年度には車載モータで3500億円を売り上げて、売上高世界一位になるということです。
 つまり、1つの発表をした時点ではあまり根拠が無いような目標も、その実現の可能性を探っていきながら、少しずつその値に近づけていきます。1973年に創業してから、ずっと一貫してこのような戦略でやってきました。「過去に目標を挙げて実現できなかったことはありませんか?」と聞かれれば、答えは「ありません」ですね。掲げた目標は全て達成しています。もちろん、1年ぐらいの遅れが出る場合はありますが、大体その目標通りに実現してきました。
その2に続く、全7回)
永守重信(ながもり・しげのぶ)
1944年、京都府に生まれる。
職業訓練大学校電気科を卒業後、技術者を経て28歳の1973年に日本電産株式会社を創立。現代表取締役社長。
1980年代より積極的なM&A戦略を展開し、精密小型モータ開発・製造をコア事業として140のグループ会社を擁する企業へと発展させた。著書に『 奇跡の人材育成法』『情熱・熱意・執念の経営』(PHP研究所刊)ほか多数。
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