北朝鮮問題で露呈、トランプ政権「劣化の危機」 場当たり的な対応は情勢を悪化させる

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だが、北朝鮮を締め上げるのに、米国は他国に頼ってばかりもいられない。ICBM発射実験が示すように、北朝鮮の米国に対するあからさまな威嚇は、北東アジアにおける米国の軍事プレゼンス縮小を迫るものだ。日韓との同盟関係を見直さざるをえない状況に追い込もうとしている可能性もある。

このような野心的目標は、ロシアや中国の潜在的支援なくしてはありえない。ロシアと中国は、北朝鮮が核開発を凍結する代わりに、米韓合同軍事演習を取りやめるよう提案した。建前上は公平を装いながら、実際には北朝鮮の核開発を阻止する以上に米韓関係を弱体化させる提案だった。北朝鮮問題に国際的な対応を行うことがいかに難しいかを示している。

難局に立たされている同盟国

一方で、同地域における米国の同盟国は難局に立たされている。韓国の新政権は、北朝鮮と対話の道を開きたいと考えているが、こうした融和路線と米韓関係とのバランスをどう取るかでジレンマに陥っている。そして日本は、先日のミサイル発射実験が示すように、米軍基地を抱えていることから危機の最前線となっている。

事態は複雑であり、慎重かつ精緻な外交が求められる。だが、トランプ大統領は気まぐれに場当たり的な声明を繰り返している。ゴルフ場という不適当な場所から思いつきで発せられたのが、例の「炎と怒り」だ。こうした好戦的な雄たけびのインパクトを中和するために、ティラーソン国務長官、ジェームス・マティス国防長官などが火消しに回らなければならなくなっている。

トランプ政権は、北朝鮮問題に対して有効な手段を手にしている。中国との協力、制裁・孤立化を通じた圧力、最先端迎撃ミサイルの供給を含む同盟関係の再確認、そして対話だ。これらの手段に効果を持たせるには、言葉と行動が精緻にかみ合っていなければならない。まさにトランプ政権に欠けている国家運営のスキルだ。

その意味で、北朝鮮問題は核の危機にとどまらない。それはホワイトハウス劣化の危機でもある。

クリストファー・ヒル 米デンバー大学コーベル国際大学院長

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Christopher R. Hill

米国の元東アジア担当国務次官補。近著に『Outpost』。

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