東急が池上線を「無料乗り放題」にするワケ 仰天イベントに透ける最強私鉄の危機感とは

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五反田は池上線をJR山手線や都営地下鉄浅草線と結ぶ、都心との結節点ともいえる重要な駅だ。ただ、JRの乗車人員で見ると25位にすぎず、新宿(1位)、渋谷(6位)どころか隣の大崎(16位)の後塵を拝する。ただ、品川区では五反田よりも大崎周辺の整備が優先されているようだ。五反田が今以上に発展するのは望みが薄い。

「蒲田駅には羽田空港に乗り入れる蒲蒲線というプロジェクトがある」と、大田区の松原区長は蒲田の将来性に期待を示す。蒲蒲線とは東急多摩川線と京急空港線をつなげる全長800mの新線計画。実現すれば東急エリアの住民はわざわざ渋谷に出なくても蒲蒲線経由で羽田空港に乗り入れることが可能になる。

羽田空港乗り入れをめぐってはJR東日本も意欲を示しており、蒲蒲線構想が採用されるかどうかは予断を許さない。だが、もし実現すれば、池上線を含むすべての東急沿線の価値向上につながることは間違いない。

小田急と相鉄が東急の牙城を侵食

周囲を見渡すと、小田急電鉄は来春の複々線化による混雑緩和やスピードアップを機に田園都市線からの利用者シフトをもくろむ。相模鉄道は2019年度のJR直通線、2022年度の東急直通線の完成によって悲願の都心乗り入れが実現する。これによって相鉄沿線が東急を抑えて新たな住みたい街としてクローズアップされることが期待される。

日蓮宗大本山の池上本門寺。沿線の名所を池上線活性化につなげられるか(写真:Hiro / PIXTA)

こうした動きに対し、東急は「田園都市線の利用者が複々線化された小田急線に流れてくれれば混雑緩和につながる」と鷹揚に構えていたように見えた。しかし今回、池上線の無料乗り放題イベントまで開いて沿線をアピールすることからもわかるように、心中は決して穏やかではないはずだ。

大井町線(大井町ー溝の口)や目黒線(目黒ー日吉)など他路線の活性化についても、東急は「いずれやらなければいけない」(東急沿線企画課の平江課長)との認識を示す。

東急グループは東横線と田園都市線という2つの路線の収益力にこれまで大きく依存してきたが、池上線を活性化させることで、収益基盤を線から面へ広げることができるか。その試金石となるのが、10月9日、つまり「とお・きゅう」の日のイベントである。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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