スタンフォードで痛感、教員はラクじゃない 米国トップスクールの教員はどんな「教育」をしているか?(前編)

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万全の態勢で授業をするためならリハーサルも厭わず

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慣れない頃は、授業の前に必ずリハーサルをしていた。いつだったか、授業のある教室でひとりリハーサルをしていたら、学生が早く来てしまってすごく恥ずかしい思いをした。

向こうからしたら、授業に来たら教師が闇に向かってブツブツひとりごとを言っているのだから、怖かったことだろうと思う。以後、なるべく自分のオフィスでやるようにしているのだけど、両隣の同僚は迷惑しているかもしれない。

うちには教師用の教授法ヘルプセンターみたいなものがあって、そこの人が授業に来てビデオを撮ってくれたこともあった。自分で見てみるとすごく恥ずかしい。

でも、そうでもしなければ、何年教え続けたところで、自分の授業が実際学生から見てどうかなのかはわかりにくい。こういったフィードバックを受けられるのは良いサービスだと思う。その割にあまり利用されていないみたいだが。

それから、何より神経を使うのは宿題や試験の問題作成だ。アメリカの大学生は成績をメチャクチャ気にするので、宿題や試験の問題に間違いがあったりしたら大変だ(もちろん文句を言われなくても間違わないようにするのは大事だけど)。

そして間違いだけでなく、説明文や記号等の書き方にも神経を使う。100%、ひととおりの解釈しかしようがない書き方をするのだ。本来、授業で使った概念や記号は説明なしに使っていいのだろうが、ちょっとでも語句や表現が違ったりすると文句を言われるおそれがあるので、やりすぎなくらい説明をつけることにしている。

同じ理由で、採点にもものすごく気を遣う。日本で大学生をやっていたときには期末試験を返却されない、模範解答が公開されない授業が多かったが、あれは僕だけ特別だったのだろうか? 今、ここスタンフォードで受け持つ授業では、ちょっとありえない。

学生は成績を非常に気にするし、教員は公平性とアカウンタビリティを求められる。宿題や試験の模範解答は公開し、可能なかぎり部分点などの採点基準もアナウンスする。まあ当たり前と言えば当たり前のことのような気もするけれど、僕の学生時代の経験とはかなり違う。これもアメリカと日本の違いなのかしら?(それとも時代の違い?)

なんだか、学生から文句を言われないことを目的に授業をしているように思われてしまうかもしれない。残念ながら、多くの教員の中に、多少なりともそういった傾向があるように思う。

 それでは、教員はみんな嫌々教えているのだろうか?
 だとしたら、学生たちはそんな授業を受ける価値があるのだろうか?
 教育産業としての大学というのは、そんなに夢のない業界なのだろうか?

後編ではこのあたりのことを、もう少し掘り下げたいと思う。

※後編は近日中に更新の予定です

 

小島 武仁 経済学者、東京大学大学院経済学研究科教授

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こじま ふひと / Fuhito Kojima

東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)センター長。1979年生まれ。2003年東京大学卒業(経済学部総代)、2008年ハーバード大学経済学部博士。イェール大学博士研究員、スタンフォード大学助教授、准教授を経て2019年スタンフォード大学教授に就任。2020年に母校である東京大学からオファーを受けて17年ぶりに帰国し、現職。専門は「マッチング理論」「マーケットデザイン」。

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