『あの花』ヒットの緻密な仕掛けとは? アニプレックス・斎藤俊輔プロデューサーが語る制作秘話(下)

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「アニメ」と「リアル」のコラボ

――「あの花」では、「あの花夏祭 in ちちぶ」「ANOHANA FES.」といったイベントを秩父市で行うなど、イベントでの盛り上げ方がうまい印象があります。イベントの打ち方で心掛けていることはあるのでしょうか?

やはりイベントでは『あの花』らしさを出さないといけないと考えています。アニメに関連した声優さんたちが出てきて、トークして終わりというようなありがちなイベントにはしたくないとアニプレックス全体の目標としてあります。

秩父という舞台でイベントをやれることは大きいですね。今年の8月24日に行われた「あの花夏祭 in ちちぶ」では、秩父市さんとの協力態勢を得たかたちで、このときには街も歩行者天国になりましたし、単なるアニメのイベントを超えて、お祭りのような感じで取り組みました。

――本作の映画化が発表されたのは、昨年の「あの花夏祭り」のイベント中でした。そういった情報発信のやり方で、心掛けていることはありますか?

もちろん情報発信のタイミングには気をつけています。たとえば映画をやりますといった新しい情報に関しては、まずそれらの関連イベントの中で発表をする。そうすれば、まずイベントに来てくれたファンに情報が伝わり、広まっていきます。やはりイベントに来てくれたファンというのは、本当にコアな、その作品のことをいちばん最初に知ってくれるファンなので、そうした方々を大切にしたいのです。そうすることで、作品のファンも増えていくのではないかと考えています。ですから、ただイベントをやるだけではなく、なるべくイベントに新しい情報発信をくっつけたいと思っています。

僕らはアニメファンに向けてアニメ化をしているわけですし、展開しようとしているのです。たとえば声優さんを軸にファンが集まってくれるようなかたちでも全然構わないわけです。そこに集まってくれたファンに120%満足してもらって帰っていただくことが、作品を少しずつ大きくしていく作業でもあると思うんです。アニプレックスでは、イベントの内容にも相当こだわっています。

――今回の劇場版『あの花』は全国64館で上映される予定と伺いました。今回、64館に決めた理由とは?

7月からノイタミナで「あの花」の特別放送を行っています。そのネット局を拾っていくと、このぐらいの規模になったということです。再放送する地域で上映しないのだったら、再放送をする意味がなくなりますから。もともとは50館ぐらいを目指したいと思っていたんですが、結果的に64館まで広がりました。

――最近のアニメ興行の場合、全国20~30館程度で一気に盛り上げておいて、上映を行うスタイルが多いように思いますが。

僕も『魔法少女リリカルなのは The MOVIE』などのときに感じたのですが、いわゆる初動の際の高揚感は、確かに公開劇場数が少ないほうが盛り上がりますし、ヒットしている実感はあります。劇場には人が集まりますし、スクリーンアベレージも非常に高くなります。

ただ逆にその分、公開エリアを狭めることで、見に行きたいのに行けないというファンも絶対出てくるだろう、という思いがありました。ですから、基本的には自分たちの最大目標をかなえられるようなキャパにはしておいたほうがいいのではないかと思ったのです。映画というものは、初週や1カ月目の成績が非常に重要で、興行収入のほとんどをそこで稼ぐという商売でもあると思うので。

(C)ANOHANA PROJECT
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