日本人は「不妊治療のリスク」を知らなすぎる

不妊治療の成功率は「世界で最下位」

もちろん強い責任感と倫理観でもって生殖医療に取り組む医師や関係者はたくさんいるだろう。しかし筆者が取材する中では、全員がそうとは思えないような話を聞くことも少なくない。

不妊治療のプロセスまで患者は見ることができないため、医療機関を信用するしかない。 採卵や採精をした段階から患者は卵子や精子の状態を確認できなくなる。実際、2009年香川県で他人の受精胚で妊娠するという取違えが起こり、中絶を余儀なくされるなど、あってはいけない医療ミスが起きている。生殖補助医療に関する法律が整備されていない日本では、何か起きた場合に責任の所在は明確にはなりにくく、 冒頭でも書いたように生殖補助医療と先天異常の因果関係も立証は容易ない。したがって、最終的には不妊治療を選択した当事者である夫婦や、それによって生まれた子どもに、その後の責任がのしかかってくる。

卵子の質だけでなく、精子側の質も

次に紹介するのは40代のBさんのケース。

「不妊治療を始めたのは30代半ばでした。通っていた不妊治療クリニックでは『精子は完璧です』と説明される一方で、低受精率の原因として、『加齢に伴う卵子と子宮の劣化』を指摘されました。『老化卵子だから顕微授精をしないと受精しません』と言われ、顕微授精を10回、繰り返し行いました。まったく受精しないので、治療をすることに疲れました」

顕微授精を反復して行う過程で、まったく受精しないという結果に心身ともに疲れ、しだいに通院している不妊クリニックへの不信感が生まれたという。

いったい彼女に何が起きていて、どうすべきだったのか。長年にわたり臨床精子学(ヒト精子の研究・臨床)をライフワークとしている産婦人科の黒田優佳子医師に訊いてみた。

「一般的な不妊治療クリニックで行われる精子の検査(具体的には精子数と運動率等の顕微鏡所見)で、精子の数、運動率とも良好であり、外見的には健康な精子に見えても、精子頭部の内部構造を解析してみると、精子DNAに損傷があったり、卵子との接着に関与する先体が欠損していたり、空胞が認められるなど、異常な頭部構造を持っている機能異常精子であることもあるのです。

この患者ご夫婦の場合は、男性側の精子が『先天性先体欠損』であることが主たる不妊原因であったと考えられます。言い換えれば、極めて低い受精率の原因は、先天的に先体が欠損していることが関与している可能性もあるのです」(黒田医師)

昨今、不妊というと、その原因は女性側、特に「卵子の質の低下(俗にいう、卵子の老化)」だと一方的に言われ、女性のみが心理的プレッシャーを感じるのが常だった。しかし、最近の研究では男性側の「精子の質の低下」も注目されるようになった。わかりやすく言えば、精子の機能異常率についても、生殖補助医療において重要であり、精子検査の必須項目として考えなくてはいけないことがわかってきた。

そのため、夫は妻を安心させるためにも、卵子の質だけでなく、精子側の質も一緒に診断してもらうという必要があるのではないだろうか。

「その具体的な方策として、精子側技術(高品質な精子を選別する技術と、高品質精子であることを評価する技術)の高度化、ならびに授精技術の高度化により、できるかぎり顕微授精を回避し、一方、顕微授精をせざるをえない症例では、精子品質管理を徹底して、安全性の向上を図ることを提唱しています。医療行為には必ずリスクが伴うのですから、限りなく自然妊娠に近づけるように技術を開発して、人為的な医療技術の介入(医療行為)を極力減らす技術に徹するべきなのです」(黒田医師)

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