グーグル検索の先駆、大宅文庫の危機と意義 昭和を駆け抜けた評論家・大宅壮一の遺産

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東京都世田谷区にある大宅壮一文庫(写真:妖精書士[Public domain]/ウィキメディア・コモンズ)

昭和の世相・風俗を「一億総白痴化」「恐妻」「太陽族」「駅弁大学」「口コミ」など名コピーで表現し、時代の断面を鮮やかに切り取った評論家・大宅壮一。彼が収集した明治から現代までの雑誌を閲覧できる図書館・大宅壮一文庫が財政難に陥り、打開策としてクラウドファンディングを利用したことが話題になっている。

大宅文庫といっても、今では「角川文庫、それとも岩波文庫みたいなもの」と出版社の商品名と勘違いされる。図書館としての利用者はまだしも、収蔵庫の母体を築いた大宅壮一となると、さらにわからない人が圧倒的多数を占めるようになっているかもしれない。

昭和30~40年代、マスコミの怪物として論壇を舞台に活躍した大宅。名宰相とうたわれた吉田茂や佐藤栄作ら、昨今の軽量総理大臣には及びもしない時の権力者から、三島由紀夫、石原慎太郎ら文壇のスター、人気女優、文化人まで容赦なく斬(き)り、そして台頭しつつあったテレビによる大衆の“白痴化”を喝破。大宅自身「カラスが鳴かない日はあっても、大宅壮一がテレビに登場しない日はない」といわれた。

たとえば、吉田茂を評した文章を引用すると――

「(前略)八千万国民の中で総理大臣級の人物といえば、吉田のほかにせいぜい鳩山(一郎)一人くらいしかいないという印象を世間に与えている。鳩山の追放でかれが政権をひろうまでは、日本国民はもちろん吉田自身でも、自分にそんな力があるとは夢にも考えていなかったろう。それがついに今日のごとくワンマン化するにいたったということは、戦後日本の虚脱状態が生んだ変態的現象である。六年もつづいた占領行政下における、奴隷根性の産物にほかならない(後略)」 

一刀両断の辛辣な表現だが、これを吉田が宰相在任中の昭和27年に書いているのだ。

いまや忘れられた存在の大宅だが、彼の危惧した未来はますます混迷の度合いを深めている。あらためて彼の膨大な作品に触れ、その慧眼(けいがん)に注目すると、日常生活やビジネスに役立つヒントが隠されている。

特徴的な「件名索引」

大宅の偉業のひとつが78万冊もの雑誌を所蔵する大宅文庫だ。資料として買いあさった20万冊のコレクションが基になった。特に、大宅は大衆誌が好きだった。父と同様に評論家として活躍する娘の大宅映子氏によれば、自宅に来た知人が、下世話なゴシップやスキャンダル記事を真剣に読む大宅の姿を見て、「あの大評論家が」と驚いたという。

権威を嫌った大宅は「つまらない本がいい。それがネタになる。大正13年に何があり、どんな人気者がいたか。それがわかる民衆の図書館が必要だ」と語ったという。

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