41歳で妻をがんで亡くした夫の「先の人生」

必ず仏壇に線香をあげてから、お見合いへ

そして巡り合ったのは薬剤師の美知子さん(仮名、46歳)。彼女は初婚である。深く考えずに幹夫さんのマンションに引っ越してきてくれたが、前妻との思い出が残る住まいには違和感を覚えたのだろう。結婚当初はぶつかることが多かった。

「僕はいまでもマンションの買い替えを提案しています。でも、最近、妻はその話題に反応しなくなりました」

美知子さんは勤務先で管理職である。仕事が忙しく、引っ越しを具体的に考える余裕がないのかもしれない。2人が結婚した年に美知子さんの父親が他界。母親は要介護のまま自宅で暮らしており、美知子さんは毎週実家に戻って介護をしている。晩婚の新婚さんには住居よりも優先しなければならないことがたくさんあるのだ。

2人の晩婚にはよい面もたくさんある。十分すぎるほどの人生経験を積んでいる幹夫さんは、美知子さんの多忙な状況を理解しつつ、それでも家庭生活を楽しんでいるのだ。

「毎朝、ご飯を炊いて、4等分しています。半分は2人の朝食で、半分はそれぞれのお弁当用です。夜はお互いに21時過ぎに帰ってくるので、まずはどちらが先にシャワーを浴びるのかを決めます。後になったほうが夕食の下ごしらえをしてバトンタッチ。先にシャワーを浴びたほうが料理の仕上げとテーブルセッティングです。だから、僕たち夫婦は3食とも同じものを食べていることになります」

外食は減った代わりに、食品スーパーで少し高価な食材を買い、寝かせておいたワインを一緒に飲むことが増えた。録画しておいたNHKニュースを観ながら、遅い夕食をスタートし、24時には就寝。美知子さんが週末に休みを取れるときは夫婦旅行も楽しんでいる。かつては由佳さんとも一緒に旅行をしていた幹夫さん。比べてしまうことはないのだろうか。 

「真逆の女性なので比べようがありません。前の妻は専業主婦志向だったので、僕が台所に立つことを嫌がりました。今の妻ははっきり言って僕よりも仕事が忙しいので、家事は分担しています。特に役割やルールは決めていませんが、お互いのすき間時間にやれることをやっています」

多趣味で、友達も多く、家事もできて、子どもを作る予定はない幹夫さん。「結婚は自分が利益を得るためにするものではない」と確信している。むしろ、今まで異なる人生を歩んできた大人同士が一緒に暮らすことは「面倒くさい」ことのほうが多い。

「すり合わせるのは手間も時間もかかります。ああでもない、こうでもない、と話し合うことばかりです。人とのコミュニケーションが面倒くさい人は結婚しないほうがいいでしょうね。でも、話し合いの繰り返しが幸せなのかな、と僕は思っています」

彼女には死別の苦しみを味合わせたくない

淡々と語る幹夫さん。一つだけ自分に課していることがある。美知子さんよりも2歳年上だけど、彼女よりも必ず長生きすることだ。美知子さんには死別の苦しみと悲しみを味合わせたくない。

「働きすぎには注意しています。僕が先に死んではいけませんから。倒れたりして相手に心配をかける前に、自分でブレーキを踏むように心掛けています」

由佳さんが亡くなったことで、幹夫さんは身も心も押し潰されそうな体験をした。リラックスができなくなり、いまだに睡眠時間が短い。それでも自分は幸せに生きていくと決めたのだ。それは由佳さんの最後の願いでもあった。何十年か後に美知子さんを看取る日まで、幹夫さんの規則正しい結婚生活は続く。

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