「はらぺこあおむし」で子供は宇宙万物を学ぶ 絵本だが、大人が読んでもやっぱり名作だ!

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それを12回繰り返して1年になればちょうどよかったのですが、地球が太陽を1周する日数よりも11日ほど短かった。それで、暦と季節がずれると、「閏月」を加えて調整したのが太陰太陽暦です。これが人間の時間の計り方で、その基準になったのは太陽と月ですが、そのこともこの絵本には出てきます。

しかもこの絵本では、1週間の始まりが日曜日だと書いてあるのです。世の中は日曜日から始まり、次の日は月曜日。自然と時の流れと曜日をつなげながら物語が始まるのです。構成としてはとてもよくできています。

次に何が起きるか。あおむしは、腹ペコですから何かを食べないといけません。小さな子どもも、お腹がすいた、何かを食べたい、という感覚はよくわかっています。動物にとっていちばん大事なことは、ごはんを食べることです。そのことがしっかりと伝わるつくりになっています。これも、筆者の生い立ちと関係しているようです。

「はらぺこ」だった筆者の子ども時代

「食べ物は、私にとって、いつも最大の関心ごとでした。私が子どものころはちょうど戦争中にあたり、食べものが乏しかったので、飢えがいつの間にか、私に、食べものに異常な執着を抱かせるようになりました。とにかく、たらふく食べたい、その事で頭が一杯でした」
(『エリック・カール来日記念講義録絵本づくりのひみつ』偕成社)

 

とエリック・カールは語っています。戦後の何もない時代に幼少期を過ごした僕にも、その気持ちは痛いほどよくわかります。

絵本に戻りましょう。月曜日にりんごを1個食べて、それでもまだお腹がいっぱいにならない。火曜日にはなしを2つ。まだお腹はぺこぺこ。水曜日にすももを3つ、木曜日にいちごを4つ、金曜日にオレンジを5つ。こうやって1日に1つずつ増えていくことで、数を覚えます。ページの大きさも数に合わせて作ってあるので視覚的にもわかりやすい。

それが曜日とつながっていますから、曜日の感覚も自然と身に付くでしょう。そして土曜日になると、子どもの喜びそうなものがずらっと並んでいます。チョコレートケーキ、アイスクリーム、ピクルス、チーズ、サラミ、ぺろぺろキャンディー、さくらんぼパイ、ソーセージ、カップケーキ、すいか。

子どもはきっとこのページに入ったら、好きな食べものをパッと指さすのではないでしょうか。慎重な子どもはジーッと見比べて考えるかもしれません。大人が一つひとつ指さしながら食べものの名前を読んであげたら、すぐに覚えると思います。

食べすぎてしまったあおむしは、お腹を壊してしまいます。たくさん食べすぎるとおなかが痛くて泣くことになるということまで描いてあるのです。でも次の日曜日になると、葉っぱを食べて元気になります。

つぎのひは また にちようび。
あおむしは みどりの はっぱを
たべました。とても おいしい
はっぱでした。
おなかの ぐあいも
すっかり よくなりました。 
(『はらぺこあおむし』23ページ)
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