ネットを蝕む「人ではない者」の大量アクセス 迷惑ボットを放置するのは社会全体のムダだ

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一方でボットには悪意を伴うものも少なからず存在している。たとえばコンピュータウイルスに含まれ、感染した端末を遠隔操作し、大量のスパムメールを配信したり、個人情報を漏洩させたりするものなどは、非常によく知られている。

ほかにも不特定多数のブログに対して、片っ端から広告的なメッセージを自動的に書き込んだり、インターネット上を巡回し、スパムメールを送信するためのメールアドレスを収集するようなボットも多く存在している。また近年では、いわゆる“まとめサイト”に盗用するためのコンテンツを探し、収集するために動いているボットも少なくない。

これらは、ともすれば企業のビジネスに対して何らかのインパクトをもたらす可能性があることから、これまでも注意喚起が行われてきた。だが近年、これまでにはなかった新しいビジネス上の脅威が、ボットによってもたらされており、JALのように企業が自らを守るために積極的なアクションを取ることが求められつつある。

ボットによって一企業の利益が圧迫されるだけではなく、業界のビジネス構造自体が揺らぎ、市場全体に大きなインパクトを及ぼすケースもある。「アドフラウド(Ad Fraud = 広告詐欺)」と呼ばれる問題は、その最たる例だといってもいいだろう。

アドフラウドとは?

最も典型的なアドフラウドの例は、広告の表示回数やクリック数の水増しだ。たとえば広告の表示回数に伴って料金が発生するものや、広告が実際にクリックされた回数に応じて料金が発生するものに対し、ボットが過剰にアクセス(またはクリック)をすることで、広告主企業が、その分の広告費用を支払わざるをえないケースが、現在数多く指摘されている。本来であれば、企業がブランドの認知や売り上げ向上を目的として支払う広告費が「人間」ではなくボット、つまりブランド認知もしなければ、購買行動も起こさない「ロボット」に対して支払われているということになる。

しかも、これは決して軽視できるような規模ではない。2014年、メルセデス・ベンツ社が北米の広告配信プラットフォームを訴えた一件では、外部の調査機関による調査の結果、サンプリングされた広告トラフィックのうち、57%がアドフラウドだったという結果になっている。また当時、すべてのインターネット広告市場の売り上げのうち、6~7%ほどが、人間以外のプログラムによって表示され、その分が課金されていたこともわかっている。

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