「はとバス」の奇跡 愚直なサービスで業績急回復!

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「はとバス」の奇跡 愚直なサービスで業績急回復!

「首都圏に住んでいるけど、発見があって楽しい。ガイドさんも親切。また乗りたい」。息子と一緒に横浜市から参加した50代の主婦は、満足そうにバスを降りた。

東京観光の定番、はとバス。今年7月で創業60周年を迎えた同社の業績が好調だ。2007年6月期の税引き前利益は過去最高を更新。終わったばかりの08年6月期は、ガソリン高が損益に影響を与えたが、定期観光の利用客を65万人と前期比3%伸ばした。

はとバスは、東京都が株の37%を握る「半官半民」。法人需要の減少やバス事業の自由化といった逆風の中で、何がV字回復をもたらしたのか。その根底には、半官半民に似合わない、愚直なサービス活動がある。

アンケートハガキが活動のすべての出発点

「あなたはお客様から高い評価をもらい、リピーター獲得に貢献しました」。8月上旬、東京大田区にあるはとバス本社。2階の会議室では08年6月下期のサービス優良者表彰が行われていた。運転手、ガイドから電話対応のオペレーターまで。個人では19名が表彰された。

「朝から半日以上、車内でおもてなしする。こんな業態はほかにない。小さなサービスを積み重ねていく姿勢が、何よりも重要」。社長の松尾均は、取り組みの狙いをそう表現する。表彰は年2回行われ、8月下旬には年間大賞も決まる。名称は「さすがはとバスサービス大賞」だ。

こうした表彰は、客からのアンケートハガキを基に決められる。はとバスでは、定期観光の際に配られるガイド冊子や各バスの前方に、アンケートハガキを用意している。アンケートの内容は、改善が必要と考える点を旅行、サービス内容の両面で自由記入するだけ。このシンプルなアンケートが、同社のサービス活動のすべての出発点になる。

自由記入だけに回収率は決して高くないが、冊子の外側にハガキをつけるなどの工夫によって、年間およそ6000通を回収する。08年6月期は、8476件のお褒めと、3508件の苦情の声が集まった。

回収したハガキは社長以下全役員が目を通す。そのうえで苦情については、担当部が現場の状況、どう対応したのかなどを関係各部にヒアリングする。苦情の内容によっては、執行役員お客さまサービス推進部長の古田勝利を中心に、即座に対応するときも多い。

「もう一歩踏み込んだ対応を回答させるように」「コース内容をもう一度全員で確認する必要がある」。月一回開かれる「ハガキチェック会議」。社長と専務、各部の責任者が、重要と思われる意見や要望、苦情について検討し、対策を話し合う。取り上げられる苦情などは月100件ほど。その中から再度対策が必要な場合は、社長や専務から改善指示が出される。

さらに四半期に1度は「サービス推進会議」も開かれる。日々のハガキチェック、月ごと、四半期ごとの情報の共有。1枚の客のハガキから、経営陣の参加の下、こうした活動が積み上げられていく。

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