誰でも配達員、「物流版ウーバー」は広がるか バイク便大手が専用アプリを2年かけ開発

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一般人が配達を担うサービスとして先行するのは2016年9月に開始した「UberEATS(ウーバーイーツ)」だ。飲食店の料理をスマートフォンで注文し、登録した一般人が配達員としてデリバリーを行うものだ。配送に自転車や原付を使う点ではダイヤクと一緒だ。ただ、ウーバーの配達員はコンピュータ側が自動的に選び、配達員側が配送料を決めることはできない。

ウーバーが2016年9月に日本で始めた飲食店向け配送サービス「UberEATS(ウーバーイーツ)」。自転車やバイクで飲食店の出前を代行する(編集部撮影)

ダイヤクはなぜ、配達員の決定を荷主に委ね、配送料の設定を配達員に委ねているのか。前提にあるのは、サービスの担い手が個人である以上、顧客対応などのサービスレベルにバラツキが出るということだ。荷主の評価が高まれば、配達員は仕事を受注しやすくなる。「荷主から選ばれる運び手を目指す」仕組みをセルートは作りあげた。

荷主は配送料金を節約でき、配達員は手取りを増やせる。そしてセルートは手数料を受け取る。まさに「三方よし」のサービスに見えるが、そんなダイヤクにも課題はある。

配達物のリスク管理では損保と交渉中

一つはリスク管理だ。配送物の破損、盗難といったトラブルにどう対応するか。前述の広告代理店ノースショアでは「クライアント向けの制作物など機密情報は信頼のおける業者を今後も使う」と話す。現時点でセルートは、ダイヤクの荷主と配達員の間で起きたトラブルの解決は当事者に委ねている。あくまでもマッチングの場を提供するという立場だ。

しかし、このトラブルへのリスクが残った状態だと普及を妨げかねないとセルートは考える。同社では現在、損害保険会社と配送物に保険を適用できないかを交渉しているという。

前出の大学生配達員、中谷さんは愛用のロードバイクを活用。ダイヤクへの配達員登録は現在数百人。サービスの普及には登録者の拡大が欠かせない(撮影:尾形文繁)

もう一つは配達員の確保だ。セルートは2018年3月までの初年度に2万件の配送を見込む。しかし、十分な数の配達員を確保できなければ、荷主の利便性は下がり、敬遠されてしまう。現在ダイヤクの登録配達員は数百人だが、「東京23区で1000人の配達員が常時配達可能な状態にできれば、15分で集荷が可能になる」(松崎氏)。

配達員を増やすため、将来的には配達員の対象を、電車やバスといった公共交通機関を使う徒歩の人にも広げることを検討中だ。一般の人が会社や学校から自宅に帰る際に、最寄り駅で宅配ロッカーから荷物を受け取り、荷物を配るなどのケースを想定している。

「ラストワンマイル」の配達における人手不足を解決する一つの手段として、個人の力を使う物流版ウーバー。この動きがどこまで広がるか、注目が集まりそうだ。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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