インフレは歴史的に革命や暴動を招いてきた 井沢元彦と予測する「日本の未来」<後編>

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井沢:フランス革命にしても、それまでのフランス社会というのは、確かに聖職者(僧侶)や貴族が威張っている社会でしたが、それが反乱の直接の原因ではなかった。しかし飢えるとなると、もう立ち上がるしかない。革命前夜は火山の爆発で天候不順が続き、小麦が取れなかったという話もあります。

マリー・アントワネットが「パンがないならケーキを食べればいいのに」と言ったという有名な話がありますね。それだけ民衆は食えていなかったということです。でもあれは、うそなんです。だって、宮廷の中での発言を誰が外部に漏らしたのか。肉声を聞ける人なんて、ごくわずかしかいないんです。そういう周辺の人が、こんな話をバラすわけがない。ということは、どう考えても、左翼が宣伝のためにでっち上げたんです。確かに聞くだけでムカッとするけど(笑)。その意味では、本当にうまいコピーです。

天安門事件もナチスの台頭も幕末もインフレが原因

井沢元彦氏「フランス革命の時、マリー・アントワネットが『パンがないならケーキを食べればいいのに』と言ったという有名な話がありますが、あれはうそ。それだけ民衆は食えていなかったということ。あの言葉はどう考えても、左翼が宣伝のためにでっち上げたもの。確かに聞くだけでムカッとするけど(笑)、その意味では本当にうまいコピーだった」(写真:PHP提供)

中原:中国共産党が歴史上なかったことにしようとしている天安門事件も、その原因は穀物の高騰にありました。確かに「民主化運動」という面はありましたが、それはあくまで一面にすぎません。中国は当時、物価上昇率が20%前後もあり、食料の値段が上がりすぎたために、国民が食べられなくなっていたんです。

あるいは、第1次世界大戦後のドイツでナチスがあれだけ勢力を伸ばしたのも、戦後の賠償金も一つの要因ですが、やはり激しいインフレの影響がもっと大きい。こんなに生活が苦しいなら、いっそ社会をゼロからつくり直してほしいと。そこまで追い込まれていたから、ナチスの主張が人々の心に響いたんじゃないですか。

井沢:あまり取り上げられませんが、日本の幕末にも、物価がメチャクチャ上がっているんです。原因ははっきりしていて、幕府が為替レートというか金銀の国内交換比率を、「金1=銀4」と設定していたためです。これは織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の時代、世界と貿易していた頃の比率ですが、鎖国したのでそのまま動かさなかったのです。

ところがその間、海外ではメキシコ銀山の発見などがあって銀の価値が暴落し、「金1=銀16」くらいの比率になっていた。その状態で開国したため、外国人が日本に安い銀を持ち込んで金をどんどん持ち出すことになったのです。

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