米国が北朝鮮渡航禁止に踏み切った真の目的 ミサイル発射に対する報復ではない

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観光からの利益は、中央政権には入らない。今日の北朝鮮についての主な誤解は、北朝鮮が命令経済であり、すべてが国家のために行われているということだ。実際、多くの企業がさまざまな機関とつながりを持ち、個々に賃金を支払ったり、サプライヤーから資材を購入したり、可能であれば当局からの収入を隠したりするような市場経済が広がっている。観光業を通じて得たドルは、ある程度流通しているのである。

だからと言って、観光客が 金正恩朝鮮労働党委員長の目標を「支援」することを完全に避けることができるわけではない。訪問者が高麗航空で北朝鮮を訪れる場合、軍事所有の会社におカネを払っていることになる。その軍隊は、もちろん、米国本土を攻撃する武器の開発に専念しているわけである。

7月下旬に北朝鮮への旅行禁止を国務省が発表した後、北朝鮮によるミサイル発射実験などが行われ、言葉による応酬が何度も太平洋を越えて行われた。北朝鮮は抽象的な表現を好んで使い、もし米政府が金正恩を追い払おうとしているなら、「強力な核ハンマー」が「米国の心臓部」に苦痛を与えるだろうと述べている。

米朝関係の1つの節目になる

この渡航禁止も1つの象徴だろう。普通の感覚では、北朝鮮の行動は容認できる基準を大幅に超えており、米政府が自国民の北朝鮮への渡航を喜んで禁止するという声明である。また、たとえ小さなことであっても、北朝鮮の経済発展を妨げるという米国の意図を示唆している。

が、渡航禁止の代償もある。人と人の交流は、たとえ北朝鮮のような管理された状態にあっても、そこに住む人の考え方に影響を及ぼす可能性がある。外国人の考え方に触れて、平壌に住むエリート階級は世界の見方を変えている。また、観光客が北朝鮮の動向や変化を指摘することで、北朝鮮ウォッチャーも多くのことを知ることができている。仮に観光業が停滞することになれば、こうした状況が失われることになる。

米国が渡航禁止令を出すことはまれなことであり、これは長い米朝関係における1つの節目となるだろう。1953年に停戦協定に署名した人たちが表舞台から去って久しいが、この苦悶する関係は持続していると考えると身が引き締まる思いである。

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