伊藤忠が「がん治療支援」に本気を出した理由 岡藤社長を動かした社員からのメール

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岡藤社長は2010年の就任以来、繊維、食料、情報、機械など非資源事業を強化し、伊藤忠の収益力を高めてきた。そしてその手腕は、社員の働き方改革でも発揮されている。

朝型勤務で22時以降の退社がほぼゼロに

有名なのは、2013年10月に打ち出した朝型勤務シフトだろう。20~22時の残業は原則禁止、22時以降は全面禁止の方針を打ち出した。健康的な生活リズムを実現させるため、接待など夜の飲食は原則1次会まで、夜10時にはお開きにする「110」運動を展開した。

一方で早朝勤務を奨励、8時前の勤務に対し割増賃金や無償の朝食支給など各種インセンティブを与えた。朝一番で顧客対応できるのが当然という岡藤社長の考えからだが、もう1つバックボーンにあるのが生産性向上へのこだわりだ。

岡藤社長が好んで使う「稼ぐ、削る、防ぐ」。同社長の合理的な一面が表れている(撮影:今井康一)

導入から3年で朝8時以前に出社する社員の割合は20%から45%に上昇する一方で、20時以降に退社する社員の割合は30%から5%に、22時以降に限れば10%からほぼゼロになった。時間外勤務時間は15%減少、朝食代も含めた残業代コストは6%削減された。電力使用量、タクシー代、さらには温暖化ガス排出量も削減できたとする。

社員が健康であることが、業務の生産性向上につながる。2016年6月には「伊藤忠健康憲章」を制定、海外で勤務する社員の健康管理強化や、毎日の運動量・食生活・睡眠データを管理できる社員向けアプリの開発なども進めてきた。今回のがん患者支援もそうした施策の延長線上にある。

伊藤忠は商社首位の座を争う三菱商事に比べ社員数が7割と少ない。それだけに1人当たり生産性を高くしないと戦えない。

多少カネがかかっても、がんに絞った先進的取り組みに真っ先に踏み込めば、社内の士気も上がり十分ペイする。企業の生産性向上という狙いも、今回の施策には込められているといえそうだ。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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