「レンタル移籍」は雇用流動化の有効ツールだ 会社を「越境」した社員は何を得たのか

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移籍当初はスピード感や業務の多様性に慣れず、調整が必要だったというが、今では2人は強固な信頼関係が築けた状態だ。しかし、移籍の期限は2018年3月に迫っている。下村氏は「終わったときのことは、考えないようにしている」と笑う。

1年間という期間は短いようにも感じられるが、ローンディールの原田未来代表取締役は「期限が切られているからこそ終わりが見え、そこに向かって真剣に頑張ることができる」とむしろ意義があることを強調する。佐伯氏は、NTT西日本に戻った後は、新規事業を担当し、ランドスキップで得たベンチャーと協力する知見を、ほかのケースにも横展開していくことが期待されている。

ただの「職業体験」の枠にはとどまらない

佐伯氏(右)と下村氏(左)。半年で強固な信頼関係が築けた(筆者撮影)

「レンタル移籍」は、単なるインプットとしての職業経験、つまり「インターン」のようなものではないし、アウトプット目的で一時的にスポットコンサルをする人材マッチングサービスなどとも異なる。短期間ではあるが、完全に相手の組織内に入ったうえで、「雇われる」立場以上のものが求められ、それに応えることができる。所属する会社から完全に離れて、事業創造を専念することは、移籍する社員にとって代えがたい経験になる。

今は大企業からベンチャー企業への移籍がニーズの中心ではあるが、「業界を変えて大企業から大企業へ移籍するケースや、ある程度の規模になったベンチャー企業から大企業への移籍に興味があるという話なども出てきている。いずれも導入に向けた課題は多いので、一足飛びにはいかないが、事例を蓄積しながら広めていきたい」(原田氏)という。地方自治体の中でも先進的な考えを持つところは、自主的に職員をベンチャー企業に出向させる取り組みを始めているようだ。

これからは「個人の時代」ということで、大企業に就職することはもはや時代遅れだという考え方も喧伝されるが、こうした柔軟なキャリア形成の機会が一般的なものになれば、流れも変わるかもしれない。大企業に入ると組織の硬直性に縛られて好きなことができない、という状況が解消されていくことが期待される。

マッチングやメンタリングを通じた育成支援のノウハウが蓄積され、適切なコーディネートができれば、「レンタル移籍」は組織、個人、そして仕事の見過ごされていた価値が、発掘される可能性を秘めているといえるだろう。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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