(第25回)近現代日本人数学者列伝~高木貞治~(後編)

桜井進

●第一次世界大戦とクロネッカーの青春の夢

 全体私はそういう人間であるが、何か刺戟がないと何もできない性質である。今と違って、日本では、つまり「同業者」が少いので自然刺戟が無い。ぼんやり暮らしていてもいいような時代であった。それで何もしないでいた間に、今の「類体論」でも考えていたのだろうと思われるかもしれないが、まあそんなわけではないのである。ところが、1914年に世界戦争が始まった。それが私にはよい刺戟であった。刺戟というか、チャンスというか、刺戟ならネガティヴの刺戟だが、つまりヨーロッパから本が来なくなった。その頃誰だったか、もうドイツから本が来なくなったから、学問は日本ではできない──というようなことを言ったとか、言わなかったとか、新聞なんかで同情されたり、嘲弄されたりしたことがあったが、そういう時代が来た。西洋から本が来なくなっても、学問をしようというなら、自分で何かやるより仕方が無いのだ。恐らく世界大戦が無かったならば、私なんか何もやらないで終わったかもしれない。
高木貞治著『近世数学史談』
 第1次世界大戦という人類にとっての不幸な出来事は、高木の数学研究にとっては格好のチャンスであったということです。ついに高木の長年にわたる研究がここで開花していきました。

 代数的整数論の中に「アーベル拡大体」という概念があります。
クロネッカーの定理 有理数体の有限次拡大体で、のアーベル拡大であるものは、 ある n ≧ 1 について、に1 の原始n乗根 ζ nを添加した体(ζ n)の部分体として得られる。
Leopold Kronecker(1823-1891)
 中学・高校で習う2次方程式や3次方程式を思い浮かべてみましょう。3次方程式には必ず3つの解があります。それら3つの解の間にはある関係が存在します(高校で習う「解と係数の関係」)。実はさらに興味深い関係が解の間に存在することが突き止められます。それが群といわれる概念です。若き数学者ガロアはこの群論を考えだし、21歳の若さで決闘に倒れこの世を去っていきました。また5次以上の方程式には解の公式が存在しないことを証明したのがやはり若くしてこの世を去る数学者アーベルです。
Evariste Galois(1811-1832)
Niels Henrik Abel(1802-1829)
 この方程式の解について、「ある条件」をみたせば「アーベル拡大体」になることはわかっていました。クロネッカーはこの逆を考えました。「アーベル拡大体」ならば「ある条件」をみたすということです。これがクロネッカーの定理でした。さて、このクロネッカーの定理の条件に有理数体とありますが、これを虚2次体といわれるさらに大きな世界でもクロネッカーの定理が成り立つのではないかと考えたのです。これがいわゆる「クロネッカーの青春の夢」といわれる予想です。クロネッカーは1849年に学位を取るも、その後8年間学界から銀行などの職につきました。しかし、1857年、クロネッカーは青春の夢を追い求め、学界に復帰したのです。

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