日本で「痴漢にされた」エリート外国人の末路 4年間乗車した通勤電車で起きた悲劇

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また、弁護士は、依頼人が起訴される前に調書を見ることができない。こうした中、弁護士の役割は、容疑者の意思決定の手助けをし、心理的カウンセリングを行うことに限られてしまう。この話を日本人の知人にしたが、誰もこのことをよく知らなかった。

こうした法体制は、容疑者を自白に導くために作られているとしか思えない。先が見えない状況が23日も続けば、誰しも何でも(罪を犯していなくても)自白してしまうのではないだろうか。仮に容疑者が根負けして自白してしまった場合、無罪を証明することはほぼ不可能だ。

外国人だったから最悪のケースは免れた

3月以来、電車で痴漢行為を指摘された後、線路を走って逃走する男性が続発、電車にひかれて死亡するケースも出ている。彼らが有罪だったかどうかを、私たちが知るよしはない。が、彼らがその後起こることを恐れて、こうした行動に出たのではないか、と想像することはできる。彼らが無罪だったとしても、それを立証することは難しかっただろう。警視庁によると、日本の刑事事件における裁判有罪率は99.9%に達する。

日本の犯罪率は著しく低いので、裁判官のミスは、おおむね正常に機能している法システムにおける不幸な出来事だとみなされる。しかし、いかなる理由もなく誰かの生活を破綻させるミスが許されるのであれば、この国の法システムは正常に機能しているとは言えないのではないだろうか。

大手企業に勤める外国人のマイケルさんは、比較的幸運だったかもしれない。企業弁護士とはいえ、早い段階で優秀と考えられている弁護士にアクセスできたからだ。しかし、そんな彼でさえ、自分の無罪を証明することはできなかった。

これが「普通」の日本人だったら、こうした事件で人生が破綻していたかもしれない。おそらく拘束を避けることはできるだろうが、起訴されたり、有罪になったりする可能性はあるのだ。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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