コッペパンブームを支える日本人特有の感性 「おしゃれなパン」からの原点回帰

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「コパンドゥ3331」は、元中学校を改装したアーツ千代田3331を入ってすぐにある。夜はフランス料理を提供している(撮影:編集部)

評判は口コミで広がっている。地元の婦人会などで大量予約が入ることもあり、リピーターも着実に増加。「一度、何かのイベントで来た高校生の男の子が、自家製コンビーフポテトを気に入り、『また来ます!』と言って、館内にいる1日の間に3回も来て同じものを食べていったことがありました」と根本氏。

人気の理由を、中村氏は「クリエイターなど、モノを作っていて感度が高いお客さんが多いので、根本さんの作るパンの丁寧さやこだわりが伝わるのではないでしょうか」と分析する。

「コッペパンは、難易度が高くない食べものだと思います。懐かしさを感じさせるものでもあり優しさもあるといった、入り口の柔らかさがある。そしてカスタマイズしやすいし、アレンジしやすい」と中村氏は熱く語る。

コッペパンの魅力は「優しさ」にあり

話をするうち、「子どもたちに絵を描いてもらって、期間限定でそのパンを出すのも面白いかも」「夜、ここで開くフレンチレストランの具材を挟んでもよいですか」「いいですよ」と、次々とアイデアを出し始めた中村氏と根本氏。柔軟な発想力を持つ2人のコンビネーションの良さも、人気につながっていると見た。

アートが飾られたカフェの店内。床は当時中学校で使われていたそのままだ(撮影:編集部)

取材した2店の経営者から、共通して出たコッペパンの魅力が「優しさ」だ。この言葉は、ブームの謎を解くキーワードかもしれない。

現在のコッペパンブームは、岩手県盛岡市で地元の人たちから愛されるコッペパンの店、「福田パン」で修業した吉田知史氏が、東京・亀有で2013年に「吉田パン」を開き、人気店になったことから始まる。

ふわふわで柔らかく、シンプルな味のコッペパンは、甘いクリームからおかずまで、多種多様な具材を挟むことができる。味の決め手は具材にあり、多様な展開ができる。パン自体より具材にポイントがある点は、日本人が開発したあんパン、カレーパンなどに通じる。

パンブームは2000年代初頭、本格的なフランスパンを売る店が、次々と開業したことから始まったが、人気の裾野が広がった今、改めて原点回帰をしているのかもしれない。そもそも、コッペパン自体、硬い皮のフランスのクーペを、日本人が柔らかい皮に変えたものが原型と言われている。

柔らかさと具材に凝るという、日本人が独自に開発したパンの要素が詰まったコッペパンが、食べてなじみやすく、優しさを感じるのは当然かもしれない。さまざまな外国の味を知り、パンの多様性に触れた人々が、故郷に帰って懐かしく思う。あるいは新しい味より、慣れ親しんだ味を求める人たちもいる。さらに、ここへきて具材の種類が豊富になったことで、SNSウケする要素も出てきている。こうした中、多くの人が、コッペパンを再発見し、ブームを作っているのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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