北朝鮮、「弾道ミサイル日本列島超え」の意図 日本列島越えは初めてではないが…

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北朝鮮は8月9日に中長距離弾道ミサイル「火星12号」4発を米領グアム沖に向けて包囲射撃することを検討していると発表した。しかし、レックス・ティラーソン米国務長官をはじめ、ドナルド・トランプ政権の平和的な解決を促す柔軟姿勢を受け、金委員長は「米国の行動をもう少し見守る」と述べ、グアム沖への発射を事実上、凍結する姿勢を見せている。

これを受け、トランプ大統領も金委員長が「敬意を払い始めた」と指摘し、緊張が緩んでいる最中だった。グアム沖の方向となる南東ではなく、北東に向けて発射実験を繰り返した背景には、米韓演習に対抗している姿勢を国内に示しながらも、トランプ政権を極度に刺激したくない意図があるとみている。

トランプ政権は今回のミサイル発射を非難することは間違いないが、グアム沖を避けて発射しているだけに、その非難のトーンがどれほどになるか注目される。

今回発射されたミサイルは「火星12」の可能性

ミサイルの種類について、小野寺五典防衛相は29日午前、今回の弾道ミサイルが5月14日に発射された中距離弾道ミサイル「火星12」の可能性が高いとの見方を示し、高い角度で打ち上げるロフテッド軌道ではなく、通常の軌道で発射されたと述べた。その5月14日に発射された火星12は、ロフテッド軌道で発射され、飛行距離は約800キロ、最大高度は約2100キロに達していた。

小野寺防衛相のこの発表前にも、専門家の間では、飛翔時間約14分や飛翔距離2700キロ、最大高度550キロを踏まえると、中距離弾道ミサイルの火星12の可能性が高いとみられていた。北朝鮮は4月にも、今回の発射場所とみられる平壌郊外の順安付近に比較的近い北倉空港から火星12を発射している。このときは約50キロ離れた内陸部に落下し、発射に失敗した。

では、今後の展開はどうなるのだろうか。

韓国の情報機関、国家情報院は28日、北朝鮮が北東部・豊渓里の核実験場で、核実験の準備完了をしたとの分析結果を国会に報告した。このため、6度目の核実験が早晩、強行されることが予想される。昨年と同様、「9月9日」に核実験が行われるとの見方が強まっている。

また、23日付の北朝鮮の労働新聞は、金正恩委員長が国防科学院を視察した際の様子を報じた。その際に公開された3段式の「火星13」と新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3」の発射実験の可能性がある。特に金委員長が全力で開発を推し進める火星13は、最大射程距離1万2000キロの大陸間弾道ミサイル(ICBM)だ。ニューヨークやワシントンのような米国東部地域に打撃を加えることできるため、この発射実験を行うかどうかが今後の焦点である。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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