北朝鮮の核開発は「戦艦大和」建造に似ている 戦前の日本を考えると経済制裁強化は不安だ

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三田:一方、日本も世界恐慌から立ち直るためには大陸進出が必須と叫ばれる。しかも、ここで後ろに下がると、これまで大陸で戦死した“英霊”に申し訳が立たない。「戦友の骨が埋まっている」と、退くに退けなくなる。血を流して勝ち取った土地を手放すことは国民が許さない。新聞やラジオは発行部数・聴取率アップのみの視点から反米感情をあおりにあおる。陸海軍は莫大な予算を得ておきながら今さら戦えません、とは口が裂けても言えない。あの戦争は起こるべくして起こった、と私は思います。

「戦争を止められた人」はいたか

三田 紀房(みた のりふさ)/漫画家。1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。代表作に『ドラゴン桜』『インベスターZ』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞(一般部門)、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。『砂の栄冠』は平成27年度文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選出された。現在、『ヤングマガジン』(講談社)にて『アルキメデスの大戦』を連載中(撮影:梅谷 秀司)

山本一生(以下、山本):日本が、なぜ戦争へと突入したのかについての最新の研究を読むと、止められそうな人はたくさんいたようです。それでも止められなかった。不思議ですね。内大臣だった木戸幸一は戦後、やはり、あれしかなかったと語っていて、無責任なように聞こえますが、実は当時の状況を的確に表現した重い言葉ではないかと私は思っています。

三田:止められる人がいるべきなのに、止められなかったというのは、現代の日本で、大企業でもまったく同じことが起きています。最近なら東芝がそう。全社を挙げて原子力事業に邁進し、ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー(WEC)を54億ドル(約6370億円)で買収し、世界3大原子力製造メーカーとなる。しかし2011(平成23)年、東日本大震災が起きて原子力発電所の安全神話が崩壊、全世界で原子炉需要が落ち込み、業績が悪化して、巨額損失を抱え、経営危機に立たされる。

WEC買収のとき、社内で警鐘を鳴らす者が誰かいなかったのか。誰も疑問を呈することなく突き進んだ結果、負債が拡大していき、気づいたときには、もう引き返せない。引くに引けない。ギャンブル中毒者と同じですよ。負けたら借金して、またギャンブル。こんなに負けたら、一発大穴で取り返さなきゃ、って。こうなると、もうダメ。冷静な判断など期待できない。

山本:確かに、東芝にはもう反対する人がいなくなっていたんでしょうね。反対意見を述べる者はだんだんと排除されていき、最終的には、止める人がいない。イエスマンだけで構成されると組織は危なくなっていく。

で、これだけ犠牲を払ったんだから、こんなに巨費を投じたんだから、といって暴走が止まらなくなる。人造石油もそうです。「石炭からガソリン」にここまで国費を投入したんだから後に引けなくなる。「水からガソリン」はタダ(笑)でしたけど。それで、戦争したら案の定、石油がなくなって、最後は、松の根から油を抽出する松根油に国民を動員する「松からガソリン」ですから。実は私、この人なら太平洋戦争を止めることができたかも、と考えることがあります。

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