戦車アニメファンも実感、進化する日本の防衛 吉崎 達彦が読む、ちょっと先のマーケット

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平成の富国強兵を目指す、安倍政権

それを反映するかのように、「総火演」の後段は島嶼防衛がテーマであった。南西諸島の離島に侵入した敵を、陸海空の3自衛隊が統合作戦で制圧するというシナリオである。当日は天候不良のため、空自のF-2戦闘機や海自の哨戒機P-3Cの参加は見送られたが、陸海空の統合運用は実地で訓練されていることが印象に残った。 ちなみに陸上自衛隊は、来年から通信機器を更新して、空自、海自と同じシステムに切り替えるという。今まで互換性がなかったというのも妙な話だが、今後は部隊間のコミュニケーションが取りやすくなる。それというのも、南西諸島の防衛がいよいよ切羽詰ってきたからにほかならない。

3年前の「フタフタ大綱」は、部隊を弾力的に動かす「動的防衛力」や、南西諸島の防衛という新しいコンセプトを盛り込んだ。ところが現実はさらにその先に行ってしまった。中国の艦船は日本の接続水域に日常的に出没し、北朝鮮はミサイルと核の開発が前進し、さらにはサイバー攻撃など新たな課題が増えている。ゆえに防衛省では、早くも次の新しい防衛大綱の議論が進んでいる。安全保障政策は静かに急展開を遂げつつあるのだ。

この秋の臨時国会においても、いくつかの重要法案が上程される。まずは「日本版NSC(国家安全保障会議)」である。この法案はすでにできており、一部野党にも賛成する向きがあるので、実現は早そうだ。年内にも官邸直属の国家安全保障会議が発足し、外交・安保政策の司令塔になるだろう。

これに伴って、特定秘密保全法案も提出される。日本版NSCが、アメリカの本家本元NSCと密接な協力をするようになれば、当然、秘密保持が必要になってくるからだ。法案の性質上、こちらの審議は少々手こずるかもしれない。さらに大きなヤマとなるのは、集団的自衛権の解釈変更である。内閣法制局長官に小松一郎前駐仏大使を充てたことは、そのための布石だと言われている。ただし解釈の変更ができたとしても、その先には自衛隊法の改正作業が待っている。かなりの力仕事になることは想像に難くない。

一連の動きが意味することは何か。おそらくは「憲法改正という大仕事を先送りしつつ、日本の安全保障政策を現実的なものにすること」であろう。安倍内閣の外交スタッフは選り抜きのリアリストたちである。彼らは歴史認識や靖国問題といった地雷を避けつつ、「平成の富国強兵策」を目指しているのであろう。
安倍政権発足後の半年間は、「富国=アベノミクス」がもっぱら耳目を集めてきたが、この秋はむしろ「強兵=安全保障問題」の議論が山場を迎える。消費税の話ばっかりしていると、この辺が見えなくなるのでご注意を。

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