世界で戦うアントレプレナーに求められる「人間としての成功」 | 愚直に続けたから 成功した、 ワケじゃない

世界で戦うアントレプレナーに<br />求められる「人間としての成功」

世界で戦うアントレプレナーに
求められる「人間としての成功」

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2017年のEY World Entrepreneur Of The YearTM(以下、WEOY)の栄冠は、カナダのムラッド・アル・カティブ(AGT Food and Ingredients)にもたらされたが、このほかにもモナコには志を高く持つアントレプレナーが多くいた。彼ら、彼女らの話から導き出されるのは、重要なのはビジネスサイズや数字ばかりではないということ。その意識は「社会への貢献」「人間としての成功」という次元に向けられていた。


「社会性」+「人間性」の重要性

「ソーシャルであることは、アントレプレナー精神においてもはや特別ではなく、むしろ当然の要件だ。これからのアントレプレナーに求められているのは、より良い社会の実現のためにどれだけ持続的な貢献ができるのかということではないか」

今年のWEOYの世界チャンピオン、カナダのAGT Food and Ingredientsのムラッド・アル・カティブは、受賞に際して、観衆にこう力強く語りかけた。カティブは受賞後のインタビューでも、自社の活動が「人口増加に伴って数十年後には直面するであろう世界食糧危機から私たちを救う一助となる」としながら、現在私たちが抱える喫緊の課題である廃棄食品の問題に対しても、どのような取り組みができるか、前向きに考えていきたいと熱意を見せていた。

ビジネスを通じて一つの社会課題を解決し、その資本を元にまた別の課題の解決へ――。

この考え方は米プリンストン大で教鞭を執る哲学者、ピーター・シンガーが提唱する「効果的な利他主義」にも通じる。一言で言えば、「自分にできる<いちばんたくさんのいいこと>をしなければならない」(『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』NHK出版)という主義だ。自分が持つ余分なリソース、つまりおカネや時間を、世界を良くするために使うことだという。

これをビジネスの世界に当てはめれば、より良い社会の実現に貢献するモノやサービスを開発したり、そのビジネスの成功から得た資金を寄付に回したり、貧困地域で起業をして経済状態を良くしたり……、というようなことだが、シンガーは、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツを(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の活動から)最高の効果的利他主義者と絶賛している。ビル・ゲイツは巨大企業を育てただけでなく、その過程で得た資産の95%を自身が亡くなる際に寄付すると宣言しているからだ。実際、すでに315億㌦*の寄付を済ませている。

たとえば、会社を興して付加価値を生み、雇用をつくり出せば、それだけでも称賛されることだ。その規模が大きければその分称賛の声も大きくなるが、さまざまな地球規模の課題が噴出する現代において、世界を率いるアントレプレナーたちに求められるものは、WEOYが「The Better World」という言葉を何度も強調するように、こうした課題を解決しうるアイデアであり、より高い次元のアントレプレナー精神であると言える。

そのヒントの一つが、ヒューマニティだろう。今の社会で、ITの力を使わずにビジネスで世界的な成功を収めることは不可能だろう。シンギュラリティ*が現実味を持って語られるようになり、AIが社会に浸透しつつある世界にあって、「The Better World」づくりのリーダーとも言えるアントレプレナーたちは、あらためて「ヒューマニティとは何か」、そして、「ヒューマニティを支えるテクノロジーのあり方とは何か」という問いに対峙しなければいけない。

他国メディアの取材を受ける高岡会長。「日本のアントレプレナーが世界一になるための土台づくりができれば」とも語る

日本代表のエアウィーヴ高岡本州会長もこう語る。

「そもそも貨幣経済とは、富を生むためではなく、衣食住といった人間の基本的な営み、つまりはヒューマニティを支えるために生まれたシステムだと私は理解している。事業を行う者は皆、その原点に立ち返って、世界に貢献する責務があるのではないか」

こうした観点からも、今回モナコに集ったアントレプレナーは皆、意識の外か内かはわからないが、社会性と人間性を備えた最高のロールモデルであろうとしているように見えた。

*出典:フォーブス

*シンギュラリティ=人工知能が人間の能力を超えること。「技術的特異点」と訳される


アントレプレナーとしての成功より、
まず「人間としての成功」を

各国を代表してモナコ入りした他の企業やさまざまなセッションからも、多くのヒントを得ることができた。

人口134万人の小国ながら世界からデジタル大国と目されるエストニア代表のCleveron ASや、今世界が熱い視線を注ぐ南アフリカのSuper Groupは、物流サービスを提供する企業だ。急成長を遂げる新興国からは、ヘルスケアや食料・農業、物流といった、人間のより基本的な生活を支える産業が多い。一方、先進国からは、「プラスαの豊かさ」への欲求を満たす消費者向けの製品やサービスを提供する企業が目立った。

豊かさの定義は、時代とともに移り変わり、国や文化によってもとらえ方が異なる。その度合いは決して数字だけで計れるものではない。だからこそ、現代のアントレプレナーには、先に挙げた「社会性」と「人間性」というキーワードから、あらためて「豊かさ」を定義し直す必要があるのかもしれない。

「人間として」と語るピサーニの言葉は、成功を収めた実業家としての側面を持ちながらも哲学的に聞こえる

「どんなに時代が変わろうとも、ビジネスにおいてヒューマニティがおざなりにされることがあってはいけない。私たちの資産とは従業員であり、彼らの知見なのです」

こう語るのは、今年初めてWEOYに参加したマルタ共和国の代表者であるアルフレッド・ピサーニ。55年前に小さなレストランからスタートした自身のコリンシアグループを、同国最大の民間企業に育て上げた実力者だ。現在も同社のリーダーとして、ホテルというハードではなく、ホスピタリティのノウハウという「ソフト」をマネタイズするという挑戦を続け、事業を拡大させている。

「価値や要件というものは、とても流動的なもの。たとえば、私が起業した時代では、ホテルの浴室は簡易的で狭いもので事足りましたが、豊かになった今のゲストたちはそれでは満足しません。アントレプレナーには、絶えず変化する時代の価値観を素早くキャッチする感度が必要ですが、それと同時に、変わらず持ち続けるべきマインドセットもあります。人間に対する誠実さや責任感、覚悟、そして情熱です。アントレプレナーとしての成功よりも、まず、『人間としての成功』を目指さなければ真のアントレプレナーとは言えません」

40年前に起業して以来、主に国内外の重化学工業分野の有力企業を買収・提携し、その勢力図を拡大し続けてきた台湾の代表であるFair Friend Groupのジミー・チュウも、こう語る。

「われわれは現在、15カ国にまたがって90社以上を保有していますが、まだ1社だった時から変わらず大切にしているコアバリューとは、それぞれの顧客をよく理解することです。たとえグローバルなビジネスを展開しようとも、個々の市場特有のニーズや文化を理解できなければ、成功は持続しません。つまり、それぞれの企業の文化的アイデンティティを買収後も大切に育めるかどうかが鍵となるのです」

ジミー・チュウ(左)とデヴィッド・ロウ(右)。共にアントレプレナーとしての確固たる信念を持っていた

ビジネス規模にかかわらず、変わるべきことと、変わるべきでないこと。そのバランスを見抜く目を持つことが、良いアントレプレナーの条件かもしれない、と語ったのは、シンガポールから参戦したFuturistic Store Fixturesのデヴィッド・ロウだ。

「進化するためには、現状に甘んじることなく、つねに問いを持ち続けなければいけません。自らの価値観を押し付けるのではなく、時代の変化に耳を澄まし、人々が何を求めているのかをつねに感じ取る必要があるのです。そうでなければ、人々の人生に良い変化をもたらし、人々をエンパワーすることはできません。それが、私たちアントレプレナーの仕事なのです」


ソーシャルアントレプレナーの
「愚直さ」とは

ロシアから参戦していたコンピューターセキュリティ会社、カスペルスキーの共同創業者で、現在は情報セキュリティ会社インフォウォッチの社長を務めるナターリア・カスペルスキーの発言は非常に示唆に富んでいた。

カスペルスキーは、今年のWEOYに参加した数少ない女性アントレプレナーの一人(49カ国を代表する計59人のカントリーウィナー中、女性アントレプレナーはカスペルスキーを含め7人、4企業のみ)で、5人の子どもを持つワーキングマザーでもある。

彼女にビジネスにおいて重要なことを尋ねると、「本質的には、ビジネスにおいて数字は最重要ではない。それよりも大切なことは、会社を愛してくれる従業員を育てることと、企業としての社会的責任を果たすこと」と答えてくれた。インフォウォッチは、CSRの一環として、文化を守る活動や、病気の子どもや母親の支援活動も精力的に行っている。

日本では産官で懸命に旗を振る「ワークライフバランス」だが、カスペルスキーの話を聞くとまだ日本が目指す先は長そうだ

女性アントレプレナーであることについて彼女は、「男性アントレプレナーが95%を占めるデータセキュリティの業界では特に、『差別化できる』という意味において有利。それも相当」と笑顔で答え、こう続けた。「私自身、取締役会の最中に子どもに授乳しに行くなど、大変な経験もした。けれど、そもそも企業とは有機的な存在であり、柔軟性を欠いては良い会社と言えない。ビジネスとは、選択と妥協の連続。アントレプレナーには、柔軟性と変化を恐れない勇気が必要だと思う」。

WEOYの会期中に直接言葉を交わすことのできたこうしたアントレプレナーたちの声から感じたのは、企業家としての成功を定義するのは、必ずしもビジネスサイズや数字ではないということだ。いかに誠実で人に優しく、事業を通して社会に貢献することができるかという(連載タイトルとはやや相反するが)、ある種とてつもない「愚直さ」と、それを効率的に進めることができるスマートな仕組みづくりが大切なのだ。

モナコに集ったアントレプレナーたちは自国に戻り、すでに愚直さを持って新たな挑戦をしているだろう。この世界を「The Better World」にするために。


 

“世界一”を決めるアントレプレナー表彰制度
EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーとは?
 EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーは、1986年にEY(Ernst&Young=アーンスト・アンド・ヤング)により米国で創設され、新たな事業領域に挑戦するアントレプレナーの努力と功績を称えてきた。過去にはアマゾンのジェフ・ベゾスやグーグルのサーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジらもエントリーしている。2001年からはモナコ公国モンテカルロで世界大会が開催されるようになり、各国の審査を勝ち抜いたアントレプレナーたちが国の代表として集結。“世界一のアントレプレナー”を目指して争うこのイベントは、英BBCや米CNNなど、海外主要メディアで取り上げられるほど注目度が高い。