消費税率引き上げ延期=国債暴落は本当か 海外投資家が売るから、消費税率を上げよという議論は誤り

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そして、このときの信認が低下するリスクというのは、投資家やトレーダーが国債についてどう見るかではなく、日本政府の財務的健全性そのものが、投資家がどう解釈しようと揺らぐことによるものであり、いわば、ファンダメンタルズにより、信認が揺らぐというリスクだ。

主導権を、人為的な「市場の声」に委ねるのは誤り

これが、私が提案するファンダメンタルズの定義だ。すなわち、他の投資家による評価、解釈に拠らず、その金融商品そのものを売買せず、長期あるいは満期まであるいは永遠に持ち続けるとした場合の投資家にとってのリスクとリターンがファンダメンタルズなのだ。

この意味でのファンダメンタルズに関して、日本国債のリスクが高まるのであれば、消費税引き上げ延期は避けるべきである、というのがもっとも誠実な議論だ。

これは、海外投資家が売り浴びせることになるから、引き上げないといけない、という議論とは、似ているように見えて、質的には全く異なる。海外投資家の行動は予測できないし、海外投資家に媚びているに過ぎないからだ。なぜ媚びるのがいけないか。それは、投資家が間違っていても、それにあわせて行動すると言うことは、主導権を投資家の雰囲気、メディアで言うところの「市場の声」にゆだねることになるからであり、実は、その「市場の声」とは、利害関係のある投資家による意図的な雰囲気作り、あるいはポジショントークにより、作られる可能性が高いからだ。

したがって、「海外投資家が売り浴びせるから、消費税を上げるべき」という議論は、脅しのように聞こえるから悪いのではなく、将来の投資家行動を予言できると考えている点で誤りであり、同時に、政策哲学あるいは政策立案側の戦略として、「負け」の戦略なのだ。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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