私がマイクロソフトに、悲観的でない理由 バルマー氏の功績と、次のリーダーの課題

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 変化の光も見え始めている  

バルマー氏は時代の変化を予見できないという評価も少なくない。栄華を極めるモバイル市場への関与が遅れたことがその主たる批判の原因かもしれない。しかし輝かしい成果も残している。  

検索エンジンBingを作ってGoogleの対抗馬にまで育て上げたのは、バルマー氏の功績だ。Facebookへ投資をしてBingを検索エンジンとして採用させた。また、今では、アップルのiOS 7のSiriに何かをたずねると、Bingを通して答えを返してくれるようになっている。さらに、クラウドサービスWindows Azureは日本でも震災の情報共有で大活躍したし、Officeのクラウドサービス化も行った。なにより、売上高は就任当初から3倍以上の約780億ドルに伸びている。  

また、バルマー時代に登場した新しいプロダクトの中で、筆者が最も気に入っているのは、Windows Phoneだ。残念ながら日本ではまだ1機種しかリリースされておらず、最新モデルが出るかどうかも分からないが、インターフェイスのデザインや、コミュニケーションに対する考え方は非常に先進的で、また深く共感できるものだ。  

アップルはiOS 7でフラットデザインを取り入れるが、モバイルデバイスで本格的なフラットデザインを採用したのはWindows Phoneが最初だろう。しかも、電話、メール、SNSなどバラバラに分かれてやりとりされるスマートフォン上で「人」軸で整理できる機能も、現在のコミュニケーションについての意欲的な問題解決であると評価することができる。  

またかつては世界最大規模のデバイスメーカーであったノキアをWindows Phone陣営に引き込みリリースしたスマートフォンLumiaシリーズは、ヨーロッパのデザインと高いカメラ性能で異彩を放ち、一定のポジションを獲得した。  

2013年第2四半期には、かつてスマートフォンという市場を作り上げたブラックベリーを抜き、スマートフォンのプラットホームの第3位のポジションへと上昇した。もちろん首位のアンドロイド、2位のiPhoneとの差は大きいが、77.6%の年間成長率は最も高い。  

現在、スマートフォンに始まったデバイスとサービスの一体的な提供は、タブレットへ波及し、パソコンやそれに変わるデバイスへと広がっている。そして、今後テレビを中心としたホームエンターテインメントの分野へと広がりを見せる。  

アップルはテレビをリリースすると噂されており、グーグルはChromecastでテレビへの取り組みを仕切り直した。しかしこの分野でマイクロソフトは、すでにXboxを有している。ゲームコンソールであるが、WindowsやWindows Phoneとの連携ができ、ユーザーもいるため、結果的に先取りしている状態と見ることもできる。

強力な収益源となっているビジネス市場へのデバイス投入やユーザーのプラットホームへの囲い込みなど、まだまだ取り組むべきことはたくさんある。しかし現在のWindows Phoneを見ると、時間をかけながらも非常に洗練された形で、これらを解決してくれるのではないか、と期待を寄せることができる。  

次のリーダーが誰になるかはまだ分からない。強力なリーダーシップと先見性はもちろんだが、バルマー氏のような熱烈なマイクロソフト・ファンであり、かつ彼と同じくらいユーモラスな人物が就任すると、また業界全体も盛り上がるのではないだろうか。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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