日本人の「心」を伝えるインド人クリエーター 新世代リーダー クリエイティブディレクター マンジョット・ベディ

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オリジナリティとは文字のごとく「オリジン」にある

クリエイティブ・ディレクターとして、「自分の立ち位置は面白いところにある」と言うマンジョット。多くの外国人クリエーターが日本で活躍しているが、彼らの多くは「自分の国から作品や実績を持って来て、それを売りにするだけ。日本のことをどれくらい知っているかという観点ではなく、あくまでベースは彼らの母国」。17歳から日本で暮らし、その価値観に触れてきたマンジョットの感覚は少々異なる。

マンジョット氏自ら撮影現場に足を運ぶ

「日本企業のどこにオリジナリティがあるか。オリジナリティとは文字のごとく“オリジン”です。一見、同じような商品をほかの国がまねして作ったとしても、“オリジン”をしっかり見つめれば、世界で勝負をしていくことができます」と述べる。

日本企業が生み出す商品の「オリジン」とは、「目に見えないところにまで行き届いた気配り」だと指摘する。職人が何を考え、どういう気持ちで作っているのか、その商品は日本人にとってどのような歴史があるのか、そのプロセスにこそ魅力があると確信する。

そうした考え方が象徴されるのが、トヨタ自動車の新興国向け自動車発売における戦略だ。

日本の商品を「あこがれるもの」に変換する力

トヨタ自動車は新興国向けの車種として「エティオス」を発売した。マンジョットは、発売先の第1弾となるインド向けのコミュニケーション戦略を任された。インドの自動車普及率は14%程度で、今後、需要が急速に伸びていくと見込まれる地域。トヨタとしても確実にシェアを獲得したい市場だ。だが、日本とインドでは何から何まで違う。そこでマンジョットに白羽の矢が立った。インド国内においても地域によって天候も違えば、ライフスタイルもまったく違う。これまでに培った感覚やコミュニケーションスキルを生かし、各地域に赴いて現地の人たちと会話をしながら地域のニーズを徹底的に見極めた。

その結果、生まれたのは「My first」というテーマ。CMは、若い夫婦が初めて手に入れた車で、赤ん坊を乗せて実家に帰るというストーリー。赤ん坊が快適に過ごせるほど静かで安定した走りを見せる「エティオス」の品質の高さと、中流家庭が車のある生活に喜びを感じる世界感を伝えた戦略は成功を治め、「エティオス」の販売は予想を上回った。この成功を機に、マンジョットは現在、タイ、インドネシア、中国、そしてサウジアラビアなどさまざまな新興国へのコミュニケーション戦略を任されている。どれも同じ人物が作ったとは思えない色合いやCMのストーリー展開。

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