トヨタが「WRC再参戦」でつかんだ成果と課題 もう一つのホームグラウンドも気になる

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12カ国のスタッフが働くインターナショナルチームです(筆者撮影)

実際に現場の意見はどうだろうか? チーフエンジニアのトム・フォーラー氏は「3つの会社はお互いを尊重し、お互いの専門性を重視することで一つの目的に向かっています。もちろん、いつもうまくいくことばかりではありませんが、そんなときであっても楽しく働けていますので、いい協力関係だと感じています。多くの人はフィンランド人で構成されているように思っているようですが、12カ国のスタッフが働くインターナショナルチームです。さまざまなモータースポーツ分野やエリアでの経験を融合することも短期間でさまざまなことを可能にした要因です。問題があればあるほどチームが強くなっていく感じはします」。

エンジン開発担当のTMG・青木徳生氏は、「ラリーは毎回走る環境が違うのでレースとは別世界。そんな中では『繊細な技術』と『人の経験』です。そのためにはモノに頼るのではなく人とつながっていることが大事ですね。トムと過ごす時間は自分の奥さんよりも長いですから。好成績にエンジンが貢献しているといいな……と思う反面、エンジンは一部のパーツなのでシャシーとドライバーのやり取りは大事だと考えています」と言う。

技術的なことよりも…

凄腕技能養成部の大場隆史氏(右)と松山大介氏(左)(筆者撮影)

TOYOTA GAZOO RacingのWRC参戦は「勝つ」ことも大事だが、ほかのカテゴリー同様に「モータースポーツを通じて人材育成」も担っている。凄腕技能養成部の大場隆史氏と松山大介氏はチームメカニックとして出向、昨年7月から生活拠点をフィンランドへ移している(出向期間は約2~2年半)。

2人に話を聞くと、「トヨタとは違い、ルールや感覚が違うことに戸惑いを覚えましたが、いろいろな枠が広がったと思います。ただ、技術的なことよりも精神面で鍛えられることが多いです(大場)」「勝つためにどのようなことを考えてクルマづくりをしているかは参考になります。まだ大きな作業のときには直接手が出せないことが多いので、自分の与えられた業務をこなしつつ作業を見て勉強中ですね(松山)」と。

フィンランド人と日本人の共通点とは?(筆者撮影)

参考までにチーフメカニックに彼らの評価を聞いてみると、「彼らはまだ自信がないようですが、個性は人それぞれで同じ結果になればやり方は問いません。そのためにはまずは『経験を積むこと』『彼らに任せること』そして『僕から信じること』が大事です」と。現代のシステマチックな育成とは真逆で「技術やノウハウを見て学ぶ」といった日本の職人の世界に近いのかもしれない。ちなみにフィンランド人と日本人、「非常にまじめ」「派手に騒がない」「つねに冷静」という部分は共通性があるそうだ。

逆に車両側に関してはどうだろうか? 当然、ラリーカーに仕立てるに当たって大きく手を加える部分もあるが、レギュレーションで手を入れられない部分も多い。そこはベース車両の素性がラリー車の性能を左右する部分も数多くあるそうだ。

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