埼玉・川越で250年以上続く老舗醤油屋の秘密 "神が宿る"蔵で生まれる「はつかり醤油」

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「建ちましたのが天保元年ですから、私どもはこの仕込蔵を“天保蔵”と呼んでいます。並んでいる杉桶も蔵と同じ歳ですが、180年経った今も現役で働いています。この蔵には酵母菌や乳酸菌などの微生物が住み着いていて、自然の力でじっくりと発酵・熟成をする。そんな昔ながらのお醤油づくりができるのは、この蔵と木桶があるからです。もしもなくなったら二度と同じお醤油は作れません」。

自然の力で醤油を作る天保蔵

松本醤油商店では観光客に向けて醤油蔵の見学を行っている。私たち取材班も、松本さんに案内してもらうことにした。 醤油の原材料は、大豆、小麦、塩、水の4つ。大豆と小麦で麹を作り、麹と塩水を合わせた“もろみ”を発酵・熟成させ、そのもろみを搾ったものが醤油となる。

麹造りは10月~5月の比較的涼しい時期に、「麹室」と呼ばれる部屋で行われる。温度や湿度を管理し、約3日間かけて麹を仕込んでいく。麹の材料となる大豆と小麦は安価な外国産に頼らず、地元産のものを使うのが松本さんのこだわりだ。

「うちの醤油は自然のまま、添加物も一切使用しません。原料もできるだけ安全なものを使おうと、40年くらい前から地元の農家さんにお願いして栽培してもらっています。私どものお醤油はそんなにたくさんの量はつくれませんので、地場産の原料だけでなんとかまかなうことができています」。

麹が完成したら天保蔵へ。木桶の中に麹と塩水を入れたもろみを、1年間じっくりと発酵・熟成させていく。このもろみを搾ったものが醤油になるのだ。

松本さんに続いて天保蔵に入ると、静かで、しっとりと水分を含んだ空気と、熟成が進むもろみの香りに包まれた。蔵の中はひんやりとしており、夏場でも低温が保たれるため、空調による温度管理はせず自然にまかせて熟成させるのだそう。頑丈そうな梁がきっちりと組まれた天井や、高さ2mはあろうかという年季の入った木桶からは、風格さえ感じる。松本さんが言うように、たしかにここには神様がいそうな気配がする。

蔵の壁や床や杉桶に宿った醸造菌によって、もろみがゆっくりと発酵・熟成していく。もちろん、ただ置いておけばいいわけではなく、職人が木の棒で桶をかき混ぜる「櫂入れ(かいいれ)」をすることで、酵母菌に酸素を送り、発酵によって出たガスを抜いていく。夏場は発酵がよく進むので、1週間に1度ほど櫂入れをおこなう。

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