増える児童虐待、子育てに悩む主婦 悩むのは、ワーキングマザーだけじゃない

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だが、経済が右肩上がりの時代が終わりにさしかかると、そうした家族観、仕事のあり方にも、様々な綻びが出始めた。

70年代に入り、「育児ストレス」という言葉が頭をもたげる。育児を終えた後は、教育が母親の仕事として重くのしかかった。“教育ママ”が時代の代名詞となり、過熱する受験戦争がそれを後押しした。

家の中では、子育てに悩む主婦が孤立。そして71年には、ロッカーに乳児を遺棄したあの“コインロッカーベイビー事件”が起こる。この事件以降も年間数件、大都市のターミナル駅で同様の遺棄事件が発生。これには、望まない妊娠や未婚のまま母となった例も多く、極めて一部の異常な出来事として認識されていた。

一方で、女性の社会進出に伴い、少子化がジワリと進んでいく。戦後の合計特殊出生率の最低記録を塗り替え、「1.57ショック」と言われたのが、90年だ。それまで、ひのえうまを理由に出生率が最低だった1966年の「1.58」を、初めてこの年、下回ったのである。

児童虐待相談件数22年連続増、加害者は実母が過半

バブル崩壊と女性の社会進出、さらに若者の晩婚・晩産化。少子化が進む中、衝撃的な事件が起こったのは、99年11月22日のこと。文京区音羽のある著名な幼稚園内で起きた、“Hちゃん殺人事件”だ。

 これはお受験で張り合う、「ママ友」同士の複雑な人間関係が尾を引き、容疑者の女Aが、同じママ友の娘である、Hちゃんに手をかけてしまった事件である。A容疑者はHちゃんを公園内のトイレに連れ込み、Hちゃんをマフラーで絞殺。持っていた黒のバッグに遺体を入れ、静岡県に遺棄した。結局、その3日後、A容疑者は逮捕された。2002年、東京高裁で、Aは懲役15年の判決が確定している。

当時、A容疑者の子と、ママ友の子だったHちゃんとは、事ある毎に比較されていた。Aは自分の子がお受験で落ちた一方、Hちゃんが受かり、それに嫉妬を覚えたことなども、事件の契機の1つになったとされる。当時のメディア報道も大々的にこの事件を取り扱い、育児に悩む主婦の孤独もクローズアップされた。

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