JR貨物の将来を左右する「線路使用料」の実態 貨物有利なルール、上場なら見直し必要に?

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先にほとんど存在しないと述べた修繕費の変動費は「換算車両キロ」と、車両キロと比較してもさらにIGRいわて銀河鉄道にとって有利な指標となっている。換算車両キロとは車両キロに、積車状態にある車両の総トン数の10分の1を乗じた数値を指す。2014年度のIGRいわて銀河鉄道の場合、筆者の試算では旅客列車は4112万1000換算キロ、貨物列車は何と25億0588万8000換算キロとなり、JR貨物の負担比率は98.4%となると考えられる。

続いては電路保存料を見てみよう。修繕費のうち、車両が搭載するパンタグラフが接触する電線であるトロリ線以外に要した費用は列車キロで、トロリ線は「パンタグラフキロ」(列車キロ×1列車当たりのパンタグラフの数)でそれぞれ算出するとある。いわて銀河鉄道にとっては、列車キロを用いて比率を求めると損となるのは先に述べたとおりだ。それでは、パンタグラフが触れることで摩耗するトロリ線をパンタグラフキロの比率で算出していることがはたして実情に即しているかというと、こちらもそうではない。

IGRいわて銀河鉄道の旅客列車の場合、1本の列車当たりのパンタグラフの数は2基となるので、パンタグラフキロは列車キロの2倍から279万6000パンタグラフキロとなる。一方、同鉄道を走る貨物列車のパンタグラフはEH500形電気機関車が使用する1基だけなので105万6000パンタグラフキロと列車キロと等しい。この結果、JR貨物の負担比率は27.4%となって、列車キロで分けたときよりもさらに有利となる。

「貨物調整金」を使用料に上乗せ

以上から、線路、電路の両保存費の修繕費は事実上、列車キロの比率で算出しているようなものだ。同様に保守、輸送、一般の各管理費、それから線路、電路の両保存費の人件費と業務費も列車キロを用いて分配することとなる。したがって、IGRいわて銀河鉄道では、貨物列車が走行して消費した分は該当する費目の85%ほどと考えられるにもかかわらず、実際に同鉄道が得られる線路使用料は該当する費目40%程度という著しい乖離が生じてしまう。

貨物調整金が導入された2014年度の線路使用料収入は約69億2000万円と、2009年度の約20億8200万円と比べて実に3.3倍に増え、IGRいわて銀河鉄道が得た線路使用料も約13億3900万円から1.9倍増え、約27億3900万円となった。国交省によれば、新しい線路使用料の算出に当たっては列車キロではなく車両キロを用いたという。このため、整備新幹線の開業に伴ってJR旅客会社から分離された第三セクター鉄道各社は、貨物列車が走れば走るほど経営が苦しくなる。そこで国土交通省は、整備新幹線の貸付料収入の一部を原資とする「貨物調整金」を鉄道・運輸機構を通じてJR貨物に支給し、第三セクター鉄道各社への線路使用料に上乗せすることとした。

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