ポスト安倍、「岸破聖太郎」の攻防が始まった 4年後なら小池と小泉が参戦し大乱戦になる

拡大
縮小

そもそも、首相が3選を断念するケースとしては、(1)総裁選前の解散・総選挙で惨敗する、(2)アベノミクスが失敗し、憲法改正も実現困難となって続投の意欲をなくす、などが想定される。したがって、首相がなお改憲実現に執念を燃やし、解散・総選挙は総裁3選後に断行するとの見方が多い現状では、なお「首相続投」が既定路線だ。その一方で「加計・森友疑惑」で首相の関与を示す決定的材料が出た場合や、10年前と同じ体調を崩しての途中退陣となれば、話し合いでの「麻生暫定政権」も浮上する可能性がある。

このため、来年9月の総裁選が党則どおり実施される場合には「ポスト安倍は安倍」となる可能性はなお大きい。ポスト安倍が4年後の総裁選に持ち越されれば岸田、石破両氏ら4人の有力候補に加えて、国民的人気を誇る小泉進次郎筆頭副幹事長の挑戦や、小池百合子東京都知事が国政復帰しての参戦も想定され、「群雄割拠の大乱戦」にもなりかねない。小泉氏も講演などで「日本は20年の東京五輪後に大きな変革期を迎え、政治も大きく変わるので若い世代の出番となる」と決意を隠さない。

ネットでもてはやされる動画 「ABE IS OVER」 

ここにきてネットでもてはやされている動画がある。題名は「ABE IS OVER」。ひと昔前の大ヒット曲「ラブ・イズ・オーバー」の替え歌で、「ABE IS OVER 遅すぎたけど 終わりにしよう 切りがないから……」で始まり、サビの「……誰に代わっても忘れはしない きっと最後のファシストと 刻むから」と続く。

2年前の夏の国会周辺での安保法制反対デモの映像と、首相の苦渋に満ちた表情がかわるがわる背景映像として大写しになる。こうした政治風刺の動画はいくらでもあるが、皮肉たっぷりな歌詞と物悲しいメロデイが視聴者の感性に訴え、クリック数が激増しているという。

首相は1強が揺らぎ始めた通常国会閉幕後の6月下旬、党役員会で「築城3年落城1日」と自らを戒めた。「出直し人事」で内閣支持率は持ち直したが、不支持理由の「首相が信頼できない」は減らないままだ。

首相はお盆休みの前半には半年ぶりに地元入りし昭恵夫人とともに父・故安倍晋太郎元外相の墓参りや地元支援者との交流に精を出し、亡き父の墓前では「初心に帰り、謙虚に誠実に丁寧に全力を尽くす」と報告した。しかし、お盆前に行われた日報問題に関する衆参両院閉会中審査に首相は出席せず、自民党は疑惑の中心人物の稲田元防衛相の参考人招致にも応じなかった。

これから1年、永田町の政局談議はポスト安倍が中心となるが、「3選」「禅譲」「派閥の合従連衡」など国民とは無縁の"永田町用語"ばかりが飛び交う状況になれば「解散総選挙も含めて、総裁選どころか、もう一度政権交代の悪夢が現実になる」(自民長老)ことにもなりかねない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT