東京都の「受動喫煙防止条例」は極めて重要だ 東京都医師会・尾崎会長が説く喫煙の大問題

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――都の条例ができればすべての問題が解決に向かうか。

条例は大きなきっかけになると考える。喫煙・受動喫煙のリスクは、まだ十分に一般に伝わっていない。条例ができれば、なぜ喫煙・受動喫煙がダメなのかをきちんとアピールできる。

たとえば20~30歳代の女性に喫煙者が増えているが、出産可能年齢でもあるので、母子保健や産婦人科の医師らと連携して、妊娠したら必ずやめてもらうように指導したい。受動喫煙でも低体重児や乳幼児突然死症候群のリスクが高まるからだ。

もう1つは子どもたちに対するがん教育。今年から小中高で、がん予防教育としてタバコの害についての教育が開始される。知れば子どもたちが親に対して「がんになるからやめて」といえる。家族のなかで話し合うきっかけになる。

地域での禁煙対策をより強力に推進するため、都内に46ある地区医師会すべてにタバコ対策委員会の設置をお願いしている。現在6~7地区にしかないが今年度中に全地区での設置を目指している。

とても安全とは言えない、加熱式タバコ

――加熱式タバコは、紙巻きタバコに比べて安全だとタバコ会社は宣伝している。

会社側が添加物などを公表していないのではっきりとはわからないが、ニコチンの純度が高く依存性が高まる危険がある。また、7月に米国の論文誌に発表された論文で、アクロレインやベンズアルデヒド、ホルムアルデヒドと言った毒性物質が紙巻きたばこの50~80%超含まれていることが報告されており、とても安全とは言えない。

最近でも加熱式タバコによる過敏性肺臓炎(アレルギー性の肺炎、特発性間質性肺炎などに移行するリスクがある)で肺が真っ白になった患者さんを診ている。また、米国FDA(食品医薬品局)では、加熱式タバコを「タバコのリスクを軽減する製品」として承認していない。

――受動喫煙防止策に対して、タバコの税収をタテに反対する人がいる。

日本にはそもそも「たばこ事業法」(1984年施行)の問題がある。タバコの収入で経済を発展させるという考え方が一因となって、タバコ対策が欧米に後れを取っている。欧米の税務当局は、国民の健康が損なわれることによる労働力の損失、医療費の増大など、総合的に考える。10年単位で考えれば、国民が健康な方が絶対にプラスであるが、日本では単年度の税収しか考えていない。この意識を変えるには、時間をかけないと難しいだろう。

――禁煙にはつながらないかもしれないが、目先の受動喫煙を防ぐという観点から、ニコチンパッチの活用は可能か。

治療ではなく、吸いたいが吸えないときの代替としてという発想は、なくはない(笑)。しかし、まずは禁煙外来に来てもらい、きちんと治療することを最優先してほしい。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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