無痛分娩リスクと「痛いお産」礼賛は別の話だ

フランス人の80%が無痛分娩を選べる理由

日本人の意識の中に、もう一つの大きな理由があると考えられます。歴史的な意識の中に原因が埋め込まれているはずです。日本人の国民性といってもいいし、日本の文化、美意識なのかもしれません。それは「ありのまま」を尊ぶ自然への思いであり、一方でそれは女性の尊厳を軽視した時代の名残であるともいえます。

「自然がいちばん」だからこそ、「お腹を痛めて産んでこそ、母親」とか「お腹を痛めたからこそ子はかわいい」というような固定概念がこの時代にも生き残り、さらには「楽に産んだら愛情不足になる」という不安さえも惹起(じゃっき)させたのでしょう。産む女性が自らそう思ってしまうだけではなく、その確信が世間全体を覆い尽くしているのです。

近代になって急速に進歩した西洋医学には、西洋の合理的精神が典型的に反映されています。医療とは合目的性という本質による、人工的かつ局所的なものです。時にリスクも伴います。しかし、考えてみてください。たとえば帝王切開術の普及によって、事故で命を落とすことがある一方で、これまでどれだけ多くの母子(ことに母の!)の命が救われたことでしょう。

「無痛」だったから愛情不足になったとは聞かない

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もっとも、歯科治療で麻酔をかけないことを徹底している方がいるとききますが、そういう強い信念を持って“自然分娩”を選択するのであれば、尊重されるべきです。けれども、痛みに耐えることと母性を同じコンテクスト(脈絡)で語るのは、おかしな話です。

少なくとも、欧米で無痛分娩によって母の愛情が不足し、母子関係に問題が起こっているという話などは聞いたことがありません。“出産”が、厳かでかつ命懸けの人生一大イベントであることは、痛みがあろうとなかろうと、何ら変わりのないことです。

自分の気持ちをきちんと表明する勇気、その勇気を認める相互信頼があるなら、パートナーとともに状況はいくらでも自分の納得のいく方向に展開できるはずです。「痛み」における個人差をちゃんと認め、「身体管理」の具体的な処方を本人の意志に委ねることができるようになることによって、成熟した社会が証し立てられると思うのです。

出産をするにあたって、各自が選択できる自由を望みたいものです。ここは世界最高水準の医療レベルを誇る日本なのですから。

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